PB商品だけ「値上げなし」 値上げラッシュなのに、なぜ?
日用品を中心に、さまざまな商品の値上げが相次いでいますが、企業の「プライベートブランド(PB)商品」の値上げは、ほとんど聞きません。なぜ、値上げしないのでしょうか。

日用品を中心に、さまざまな商品の値上げが相次いでいますが、小売業者が自ら企画・開発、販売を行う「プライベートブランド(PB)商品」については、「値上げした」という話をほとんど聞きません。とはいえ、PB商品のラベルを見ると、製造者には原材料費高騰で自社商品を値上げした大手メーカーが記載されていることもあり、同じ原材料を使っているはずのPB商品の値段が維持される理由が分かりません。なぜ、PB商品は、値上げしないのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。
あくまで期間限定での宣言
Q.大手メーカーの商品と小売業者のPB商品では、値上げラッシュ前でもPB商品の方が安く販売されていました。なぜ、PB商品は安いのでしょうか。
大庭さん「PB商品を安く販売できるのは、(1)広告費がかからない(2)開発コストや物流コストを安く抑えることができる(3)大量発注により仕入れ値を下げることができる─というのが主な理由です。
メーカーが小売業者の売り場で自社商品を販売する場合、広告費を使って消費者に認知してもらい、小売業者に『この商品は売れる』と思わせなければいけませんが、PB商品の場合は、小売業者が自らの売り場に陳列することで消費者に認知され購入につながるため、広告費が不要となります。
また、PB商品は、メーカーがすでに開発した商品を小売業者のブランドで販売するケースが多く、開発にかけるコストが不要になります。さらに、メーカーと直接取引することで、卸売業者を通す必要がなくなり、物流網が効率化することで物流コストを安く抑えることも可能になります。
さらに、小売業者が売り場での販売情報を分析した上で正確な販売予測を割り出し、その結果に基づいた大量仕入れを行うことで、仕入れ単価を下げることが可能となります。これらの理由から、PB商品は安く販売できるのです」
Q.商品の値上げが相次いでいる現在、PB商品の値上げという話をほとんど聞きません。なぜ、値上げしないのでしょうか。
大庭さん「現状、大手小売業者を中心としたPB商品は値上げをしていません。その主な理由は、メーカーから大量購入することによる効果と、小売業者側のコストダウンによる効果が表れているからだと考えられます。
小売業者が直接取引をしているメーカーに大量発注を行うと、メーカー側も原材料を一度に大量に仕入れることができ、その分、原材料費を抑えられます。さらに、計画的な製造が行え、メーカー側の生産効率が向上します。これらにより、メーカー側の生産コストの上昇が抑えられ、小売業者の仕入れコスト上昇を抑えることにつながります。
さらに、小売業者側も、(1)ラベルや包装を簡素化する(2)業務の効率化を図る(3)集客のための宣伝広告を抑える─などのコストダウンへの取り組みを行っています。多くのPB商品が現在のところ値上げをせずに済んでいる理由は、これらによるものです」
Q.PB商品の製造者は、原材料費高騰で自社商品を値上げした大手メーカーであることも少なくありません。使用する原材料は自社商品でもPB商品でも同じはずなのに、片方は「値上げ」、もう一方は「現状維持」ができるものなのでしょうか。
大庭さん「PB商品は、先ほど述べたように、商品自体の広告を必要とせず、メーカーの生産コストを抑えるための対応を小売業者側がコントロールできるため、価格の据え置きが可能になります。しかし、メーカーが自社のブランドで製造した商品を販売する場合、そのような効果を得ることが難しいため、値上げにつながっていきます。
小売業者は、自社の販売情報に基づいた仕入れ計画を立てて、商品を発注します。よって、特定のメーカーが小売業者に大量の取引を提案したとしても、それが実現するかどうかは小売業者の判断にかかってきます。
つまり、メーカー側にとっての確実性が得られないため、メーカーは、従来通り自社の生産計画に基づいた製造を行い、広告費をかけて消費者に自社が製造した商品を認知させる必要があります。これにより、多くのメーカーが値上げせざるを得なくなるのです」
Q.PB商品がさまざまな工夫で値上げを回避できるなら、大手メーカーの通常商品も同じ工夫で値上げを回避できないものでしょうか。
大庭さん「メーカー側も、製造方法や原材料の調達方法の見直し、物流の効率化などによるコストダウンのための対応に手を尽くしています。
現在の原材料費高騰などのコスト増が、一時的な現象であることが明らかな場合、メーカーも値上げをせず、企業体力の範囲内で耐えることができます。しかし、一時的ではなく先の見えない環境変化であると判断をしているため、値上げに踏み切ったのです。
メーカーには、安全で良質な商品を消費者に提供する社会的な役割があります。その役割を果たすためにも、企業として存続した上で、安全性や品質を高めていくための対応を実施し続けていく必要があるのです。
そういう意味からも、必要な値上げを行うことはやむを得ない対応なのではないかと私は考えます」
Q.近い将来、多くのPB商品も、値上げが避けられないのでしょうか。
大庭さん「イオンや西友が、『PB商品の販売価格を2022年6月30日まで据え置く』と宣言していることに代表されるように、小売業者が、期間を限定したうえで値上げを行わない決定をしている事案が多く見られます。
先述したように、PB商品は、メーカーと一体になった生産コストの上昇抑制や小売業者のコストダウンの効果が表れることで値上げを防いでいますが、その対応にも限度があります。
小売業者が、企業として適正な利益の獲得ができなくなった場合、そのしわ寄せは、サービスの低下という形で消費者のもとに及びます。そうなる事態を避けるためにも、原材料費の高騰に代表される“負の環境変化”が長期化した場合、PB商品も値上げせざるを得なくなるのではないかと私は考えます」
(オトナンサー編集部)
コメント