オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

「不用品買い取り」頼んだら、大切な指輪を強引に…「押し買い」にどう対処?

一般家庭を訪れて、強引に貴金属などを買い取る「押し買い」が社会問題化しています。どういった人が狙われやすく、被害に遭った場合は、どう対処すればよいのでしょうか。

大切な宝石が…
大切な宝石が…

「押し売り」といえば昔からの悪質商法として有名ですが、その逆の「押し買い」も社会問題化しています。一般家庭を訪れて、強引に貴金属などを買い取る行為ですが、「大切にしていた指輪を強引に買い取られた」といった被害も出ているようです。どういった人が狙われやすく、被害に遭った場合は、どう対処すればよいのでしょうか。消費生活アドバイザーの池見浩さんに聞きました。

クーリングオフ可能な場合も

Q.そもそも「押し買い」とは。

池見さん「『押し買い』とは一般的に、個人宅などへ不用品買い取りなどの名目で訪問し、法外な値段で、強引に貴金属などを買い取る悪質な手口を指します。事業者と消費者との間でトラブルになりやすい契約についてルールを定めた『特定商取引法』では、『訪問購入』に分類され、訪問購入事業者を規制しています。

【主な規制】
・依頼なしに訪問してはいけない(不招請勧誘の禁止)
・必ず事前に、事業者名、訪問目的(契約を結ぶこと)、買い取る具体的な商品名を告げる(例えば腕時計など。あいまいな『不用品ありませんか』はNG)。その目的以外の物は取引できない
・勧誘を断られたら再勧誘できない(再勧誘の禁止)
・契約を結ぶ前に、クーリングオフ制度や、クーリングオフ期間中は商品の引き渡しを拒否できることの説明をする
・法律で定められた内容を網羅した契約書を渡す
・虚偽説明や威迫、不利益事実をわざと告げないことなどの禁止

この『訪問購入』に該当するのは、一般消費者が売る場合で、買い取り業者から突然の訪問や事前のアポイント電話で、『売ってほしい』と勧誘されて契約した場合になります。自分から業者を呼んだ場合や、引っ越しのための家財処分を前提とした契約は適用されません。また、2輪以外の自動車、家具、簡単に持ち運べるサイズ以外の家電品、本、CDやDVD、ゲームソフト、有価証券の契約にも適用されません」

Q.どういった人が狙われやすいのでしょうか。

池見さん「2019年に全国の消費生活センターで受けた相談の状況をみると、60代から高齢になるにつれて、訪問購入に関して相談する人の割合が増えています(消費者庁の2020年版消費者白書による) 。
一般的に、高齢者は長年の生活で購入し、不用になった家財を多く抱えています。そのため、『処分したい』というニーズが強く、業者側もそれを狙って勧誘すると考えられます。

また、老若男女問わず、他人の頼み事を断るのが苦手な人は、注意が必要です。押し買いはそもそも、消費者を予定外の売買契約を結ばざるを得ない状況に追い込む、悪質商法です。『不用品ありませんか』といった電話を受けたとき、きっぱりと断れないなどの『弱み』を見せると、悪質業者はそこを狙います。日頃から、『嫌なものは嫌』とはっきり伝える習慣を身に付けましょう」

Q.売る気のないものを売ってしまった場合、取り戻す方法はあるのでしょうか。

池見さん「大別すると、売ってしまった状況により、クーリングオフ制度での解約・返品と、業者との合意解約の2つの方法があります。

(1)クーリングオフ制度
特定商取引法の『訪問購入』の場合、売り手である消費者は、法律上正しい契約書面を受け取った日から8日間は、書面で契約を無条件で解除できます。また、次のようなルールもあります。
・業者は一切損害賠償等を要求できない
・消費者は、売買契約を結んでも、クーリングオフ期間中は商品の引き渡しを拒否できる
・買い取り業者は、クーリングオフ期間中に転売した場合、売った人には、転売先や転売した日付、商品の詳細などを、転売品購入者には、転売品であることや商品の詳細、クーリングオフ期間中であることを通知する

(2)チラシなどを見て、自分から業者を招いて契約した後、取り返したくなった場合
消費者から買い取り業者を呼んだ場合は、クーリングオフの対象になりません。直接業者と相談して契約を解除することになります。この場合、買い取り業者との合意が必要です。ただし、強引に売らされてしまった場合は、『強迫』として契約を取り消すことができます」

Q.業者側が勝手に来た場合はともかく、自分が不用品を売りたいと思って業者を呼んだ場合に、当初売ろうとしたものが「価値がない」と言われてほかのものを要求されると、「断っていいのだろうか」と思ってしまう人もいるようです。そうした場合、断っても問題ないのでしょうか。また、「そちらが呼んだのに」とすごまれたり、「ただでは帰れない」などと言われたりしたら、どうしたらよいのでしょうか。

池見さん「断っても全く問題ありません。なぜなら、『売却希望のものは価値がないから、他の物を売れ』という要求は、消費者が業者を呼んだ目的とは違う、別の契約を迫られているにすぎないからです。民法では、契約する当事者は、契約するかしないかを選択して決める『契約自由の原則』が保証されています。むしろ、契約の自由を妨害するような、強引な勧誘や暴力などは、違法行為になります。もし、事業者に退去を求めても帰らない場合や、暴言や脅迫を受けた場合は、その時点で警察に通報し、自宅に来てもらいましょう。

また、逆のケースで、業者を呼ぶ際に『この腕時計は1万9800円で売ります』などと事前に契約を結んだのに、業者が来訪したら気が変わり、売るのを勝手に、一方的に断ると、約束不履行になりかねません。自ら業者を調べて呼ぶ際は、必ず、『売るか売らないか分からないけれど、見積もりだけお願いしたい』と明言してください」

Q.引っ越し時期になると、「不用品買い取り」という広告に敏感になる人もいると思います。どのように業者を選べばよいのでしょうか。

池見さん「広告表示のチェックポイントは次の通りです。

【広告表示】
・不用品の買い取りは、古物商に該当し、公安委員会の許可が必要です。広告に古物商許可番号があれば、各公安委員会のWEBサイトで登録を確認してください
・有利な条件ばかり強調している広告は要注意です。隅々まで条件をよく見て、電話でも確認し、少しでも不安があったら依頼しないでください
・一般廃棄物処理業の許可では、古物商を営業できません。また、東京23区など一部の自治体では、条例により、自治体以外の業者は家庭のごみ・廃棄物を回収できません。買い取りと廃品回収を依頼する場合は、両方の許可の確認、また自治体の廃品回収の案内などを事前にチェックしましょう

【契約の注意点】
・引っ越し業者や買い取り業者は、最低でも事前に2~3社から相見積もりを取りましょう。すぐに契約せず、きっぱり断る勇気も重要です
・引っ越しに際して消費者が買い取りを依頼した場合は、原則として特定商取引法の規制対象外です。慎重に契約先を選びましょう
・当日、事前の打ち合わせと違っていたら、作業を中止させましょう。その場で苦情を申し出てください。強引に買い取ろうとしたら、警察に通報しましょう

少しでも不安があったら、契約前でも契約後でも、『消費者ホットライン(局番なし188)』で消費生活センターに相談してください」

(オトナンサー編集部)

池見浩(いけみ・ひろし)

消費生活アドバイザー・消費者考動研究所代表

インテリア商社で営業・お客さま相談窓口などを歴任する中、シックハウス症候群問題で企業と消費者とのギャップに強い疑問を持つ。退社後、消費生活アドバイザー資格を取得し、保険会社の苦情対応や法テラスコールセンターなどに従事。自治体の消費者啓発担当として、消費者被害防止の地域連携や市民向け講座講師、各種広報や講座企画等を経験後、行政の消費生活相談員として消費者相談にも従事。衣食住、法律、ライフスタイルなど消費生活全般、企業コンプライアンス、SDGsまで幅広く対応可能な消費生活の専門家として、行政の専門委員や企業の消費者志向コンサルティング、各種講座・研修講師、メディアでの情報発信など活躍中。消費者考動研究所フェイスブック(https://www.facebook.com/ShouhishaKoudou/)。

コメント