オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

自分が「マルチ商法」に誘われたら、どう対応すべき? 向き不向きはある?

突然、知り合いから、商品やサービスの購入をすすめられ、販売組織への加入を求められる「マルチ商法」に誘われたとき、私たちはどう対応すべきなのでしょうか。

マルチ商法に誘われたら?
マルチ商法に誘われたら?

 商品やサービスを契約して、次は自分がその組織の勧誘者となり、次々に販売組織に加入させていって、紹介料や報酬などを得ることを「マルチ商法」といいます。突然、知り合いから、「この商品、とてもいいから買ってみない?」などと執拗(しつよう)に商品・サービスの購入をすすめられることもあるため、これまでの人間関係が崩れるケースもあるようです。

 自らが抱えるリスクが大きく、冷静に考えれば、勧誘者になることをためらうと思うのですが、それでも、勧誘者になる人が一定数います。もし、マルチ商法に誘われたら、どう対応すべきなのでしょうか。消費生活アドバイザーの池見浩さんに聞きました。

「特定商取引法」で細かいルール

Q.世の中では、「マルチ商法」と「ねずみ講」は同じものと思っている人もいますが、どのように違うのでしょうか。

池見さん「『ネットワークビジネス』とも言うマルチ商法は法律上、『連鎖販売取引』と呼ばれており、商品やサービスの売買があります。個人の代理店が別の個人代理店を増やしていく、つまり、人の連鎖によって販売拡大を行う販売取引形態です。マルチ商法自体は違法ではありません。

ただし、複雑でトラブルになりやすいため、『特定商取引法』で事業者を規制するルールが細かく決められています。例えば、勧誘前にマルチ商法の勧誘だと消費者に告げることや、契約前に契約内容の説明書を渡してしっかりと説明すること、20日間のクーリングオフ制度、中途解約の精算ルールなどです。

一方、ねずみ講は法律上、『無限連鎖講』と呼び、商品やサービスの取引がない点がマルチ商法と異なります。会員になるために支払われる入会金で組織を維持することが特徴で、自分への配当金を増やすためには、常に会員を勧誘し続けないといけません。

とはいえ、仮に会員が毎月2人ずつを入会させるノルマを課せられたとして、これを続けると、いずれ、日本の総人口を超え、組織は必ず破綻し、莫大(ばくだい)な人数の被害者が出てしまいます。だからこそ、『無限連鎖講の防止に関する法律』で違法行為として禁止され、主催者にも、誘われた参加者にも刑事罰が設けられています」

Q.例えば、求人広告などで「マルチ商法の勧誘者募集中!」というように、公に勧誘者を募集しているケースを見たことがありません。どのようにして勧誘者を募集しているのですか。

池見さん「多くは、個人の販売員(代理店)が知人などに直接声を掛けて勧誘していると思われます。ネットワークビジネス事業者の中には、希望者がウェブサイトから直接問い合わせができるように設定している会社もあります。中には、悪質な手法で勧誘者を集めているケースもあります。

最近、20代の若者を中心に『投資・副業のノウハウを教える』『コンサルティングやセミナーを受ければ稼げる』などと勧誘され、それらの教材を数十万~数百万円で契約させられて、勧誘員にならざるを得ない状況に追い込まれたという相談が全国の消費生活センターに多数入っています。

そもそも、教材で学んだり、セミナーを受けたりしただけで、すぐに投資や副業で満足に稼げるほど世の中は甘くありません。若者が『稼げない』と販売した業者に苦情を言うと、『友達を契約させたら手数料を稼げる。手数料ですぐ元が取れる』と甘い言葉で誘惑され、勧誘員になってしまうのです。これを『後出しマルチ』と呼んでいますが、被害が多発していて、注意が必要です」

Q.勧誘者になるなどマルチ商法に向いている人と、向いていない人の違いは何でしょうか。

池見さん「マルチ商法の本来の姿は『自分が買った素晴らしい商品(サービス)を多くの人に広めたい。自分が代理店になり、買った人に喜んでもらい、さらに代理店になってもらえば、多少の紹介料を得ながら、みんなが幸せになる』というコミュニケーションを基盤とした販売取引形態です。

正しい取引を行っているマルチ商法で成功している会員は、目先の利益にとらわれず、地道な営業活動を積み重ねて成果を出しています。そのため、法律を守り、良好な人間関係を大切にしながら、人の役に立ちたいという思いがある人、ある程度、自分自身にゆとりや自信がある人がマルチ商法には向いているでしょう。

一方、悪質なマルチ商法の業者は誰しもが抱えている将来や生活、社会や自分自身への不安などに対し、『あなたの不安が解消できる』『夢がかなう』『独立して起業できる』などと、心の隙間を埋めるマインドコントロール手法で勧誘します。結果、特に自分自身にゆとりや自信がない人にとっては、自己実現がかなう場所のように思えてしまいます。中には、離脱しにくくなる人もいるので注意が必要です」

Q.知り合いに、定期的に商品・サービスの購入などの金銭を求めることは心情的にハードルが高いと思います。勧誘者はハードルとは感じないのでしょうか。

池見さん「実際に複数の勧誘者にヒアリングをしているわけではないので断定的なことは言えませんが、先述したように、法令を順守し、販売する商品・サービスの良さをもっと広めようと営業活動をしている人は通常の販売形態の営業担当者と同じように、仕事としての高いモチベーションでハードルを乗り越えていると思います。

一方、悪質なマルチ商法に加入してしまっている場合、多くは自己実現のための虚偽の説明を信じ込むよう、マインドコントロールされている可能性があります。中には、他人に相談したり、周囲から情報を得たりすること自体を禁じるケースもあるようです。

そのようになると、十分な判断ができないまま、自身の目的や組織から命じられたノルマを達成するために強引な勧誘を行ってしまうのではないかと思います。当然ながら、法令違反という認識を持つ機会もないでしょう」

Q.「マルチ商法に誘われた」という人がいた場合、どのような注意点をアドバイスされますか。

池見さん「マルチ商法はネットワークビジネスとも呼ばれるように、人と人とのつながりを大切にし、地道な営業努力を積み重ね、相手から喜ばれた結果、正当な報酬が得られる取引形態です。しかし、目先の利益だけを追求すれば、家族や友人、社会の信頼を失う可能性があるということを十分に認識しましょう。

具体的には『すぐに高収入が得られる』などと誘う相手は悪質業者です。必ず断りましょう。『病気が治る』『幸運を招く』などの商品・サービスは法令違反やトラブルになりがちです。気を付けましょう。マルチ商法に携わる人は特定商取引法を厳守しなければなりません。始めたいと思うなら、まずは特定商取引法を熟読しましょう。

勧誘を受けたら、その場で契約せず、帰宅して検討してください。少しでも不明な点があったり、不安を感じたりしたら、断りましょう。強引に契約を求められたら、悪質商法と思いましょう。20日間のクーリングオフ期間があります。20日間が過ぎても、契約書に不備があれば、クーリングオフは可能です。消費生活センターに相談しましょう。

マルチ商法の販売員になることは、個人事業主になることです。事業者としての社会的責任を負います。消費者を保護する法律で保護されない場合もありますので注意してください」

(オトナンサー編集部)

池見浩(いけみ・ひろし)

消費生活アドバイザー・消費者考動研究所代表

インテリア商社で営業・お客さま相談窓口などを歴任する中、シックハウス症候群問題で企業と消費者とのギャップに強い疑問を持つ。退社後、消費生活アドバイザー資格を取得し、保険会社の苦情対応や法テラスコールセンターなどに従事。自治体の消費者啓発担当として、消費者被害防止の地域連携や市民向け講座講師、各種広報や講座企画等を経験後、行政の消費生活相談員として消費者相談にも従事。衣食住、法律、ライフスタイルなど消費生活全般、企業コンプライアンス、SDGsまで幅広く対応可能な消費生活の専門家として、行政の専門委員や企業の消費者志向コンサルティング、各種講座・研修講師、メディアでの情報発信など活躍中。消費者考動研究所フェイスブック(https://www.facebook.com/ShouhishaKoudou/)。

コメント