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どうして企業は退職者に、退職することを口止めする? 引き継ぎに支障は…?

企業の中には、退職予定者に、退職することを同僚などに話さないよう口止めするケースがあるようです。どのような心理から、そうするのでしょうか。

退職を口止めする理由とは?
退職を口止めする理由とは?

 年末が近づき、年内で会社を退職する人や、同僚が辞めることを聞いた人もいると思いますが、一部企業では退職が決まった人が上司などから、「退職することを社内で言わないで」と口止めされることがあるそうです。ネット上にも「最終勤務日まで退職を口止めされているから、コソコソと同僚と業務の引き継ぎをしている」などの投稿が見られます。

 なぜ、企業は退職予定者に、退職を口止めすることがあるのでしょうか。キャリアコンサルタントの小野勝弘さんに聞きました。

退職は本人だけの問題じゃない?

Q.企業が退職予定者に口止めするのは、なぜでしょうか。

小野さん「他の社員が連鎖退職することの防止や、社内の混乱への対処が考えられます。退職は退職予定者個人の問題と捉えがちですが、1人の決断が組織に影響することは数多くあります。よいケースであれば、それが組織の利益になるケースもあるでしょう。しかし、職場環境にもよりますが、1人の退職をきっかけに連鎖的に退職が起きるというケースは実際にあります。

例えば、毎日、みんなで愚痴を言い合っている職場の中で、1人だけが『転職が決まったんだ』と声を上げたとしたらどうでしょうか。『私も転職したいな』という気持ちにならないでしょうか。こういう人の気持ちの変化に対処するために、口止めしているというケースがあるのだと思います。実際、新人が連鎖退職し、時期は違いましたが、新人約20人のうち7人が辞めることになった企業がありました」

Q.最終勤務日近くまで、退職を口止めさせる企業もあるようですが、残る社員に円滑な業務の引き継ぎができない可能性があります。企業にとってもマイナスのはずですが、なぜ、ぎりぎりまで口止めするのでしょうか。

小野さん「引き継ぎがうまくいかないデメリットはマニュアルで解消できる場合もあります。それ以上に、口止めすることで、他社とのプロジェクトに穴が開いたといったマイナス面をできるだけ見せないように配慮している可能性はあるでしょう。

例えば、1つの仕事を4社で分担してこなしていた場合、早いうちから退職を公言されてしまうと『この人は退職するんだから、情報をあげても意味がない』『退職者がいる状態で連携が図れるわけがない』といったマイナス面を、協業する企業の担当者が感じる場合もあるでしょう。利害関係者に配慮し、不必要な影響を出さないために口止めされているのです」

Q.「社員が辞めることを知られるのは恥だ」という企業の負い目から、メンツを保つためにぎりぎりまで口止めさせるという動機は珍しいのでしょうか。

小野さん「珍しくはありませんが、本当に企業のメンツを保つ目的で口止めしているのか疑問です。実際の退職者から聞く内容としては、企業の負い目よりも上司の負い目のように思います。『マネジメントできていないという誹(そし)りを避けるために、会社の負い目だと言われたようだった』という意見があります」

Q.仮に退職決定後に上司から、「退職は最終勤務日ぎりぎりまで口外するな」と言われたとします。この場合、従った方がよいのですか。

小野さん「もちろん、上司の指示に従う方がよいでしょう。法的な問題というより、職場のマナーとして、従う方がよい場合が多いと思われます。ただし、悪い上司であれば、退職を最後まで隠した上で『退職は辞めた人のせいで自分は悪くない』と正当化してしまうケースもあります。そのため、口止めをする目的や意味を考え、必要なら上司に聞いてみるのもいいでしょう。

そして、引き継ぎの問題も上司に相談すべきです。業務命令である以上、引き継ぎについても上司から一言もらえるとよいでしょう。仕事の中で、退職することを告げると悪影響が出そうな案件があれば、上司の意見に従い、退職を口外しないように職務に励むべき場合もあります」

Q.もし、企業側が退職予定者に退職を口外しないように伝えたにもかかわらず、口外されていることに気付いたとき、ペナルティーが科されることがあるのでしょうか。

小野さん「法的なペナルティーの有無は私の専門ではないので述べられませんが、それ以外のペナルティーについては、一言で言うとありません。むしろ、基本的にはそれを科すことができないというのが正しいです。人のうわさが広がることは、どうしようも防ぎようがないですし、辞める人へわざわざ、ペナルティーを科すことに意味があるのかという問題があるためです。

しかし、嫌がらせをされたという事例があるので注意は必要です。例えば、退職に向けた有給休暇の消化を行いにくくするため、辞めるまでに終わらせる仕事を大量に振るというようなケースがあったという話は聞いたことがあります」

Q.退職予定者が退職を口外しなくても、同僚が「辞めるのではないか」と雰囲気や態度から気付くこともあるかと思います。そうしたとき、残る社員は何も聞かない方がよいのでしょうか。

小野さん「『同僚が辞めるのではないか』と残る社員が感じたとき、その人に話を聞くということはよいことです。なぜなら、仕事の引き継ぎにおいても引き止めにおいても効果があると想定されるからです。ただ、リスクヘッジという観点でいうなら、そもそも、普段から、リスクヘッジはしておくべきで、退職が決まったときに行動しても遅いケースの方がほとんどのように思います。

逆に、退職する人がいる以上、新しく異動してくる人や中途社員が採用されてくるケースもありますから、リスクヘッジという観点から見れば、新しく来る人への手厚いサポートを行う方が業務効率化と定着へのメリットの2点から、より有効だと考えます」

Q.結局、退職予定者がいることを同僚に伝えるときは、いつ、どのタイミングで、どのように伝えることがベストなのでしょうか。

小野さん「一番は上司と退職者が相談の上、タイミングを見極めるべきでしょう。なぜなら、ベストなタイミングは会社、仕事、現在のプロジェクト、利害関係者との関係、チームメンバーとの関係など、さまざまな要因やその時々で変化するからです。マネジメント層の社員との対話を通して意思の統一を行い、タイミングを見極めるという、1人で判断しない姿勢こそが大切となります」

(オトナンサー編集部)

小野勝弘(おの・かつひろ)

キャリアコンサルタント、一般社団法人セルフキャリアデザイン協会代表理事、株式会社ファサディエ EAP事業部 新規事業準備室

1969年東京都生まれ。桐蔭学園工業高等専門学校電気工学科卒業。2001〜2016年までIT系企業に所属。エリアマーケティングツールに携わり、営業・商品企画・事業企画・人材教育・労務管理などを経験。企業のホワイト化・健康経営・人事労務は、今後の会社経営に欠かせない重要な領域と考え、「労働者と企業のための人材定着、若者雇用促進による企業の生産性向上」をテーマとする。2016年〜現在は株式会社ファサディエ EAP事業部所属。2018年に一般社団法人セルフキャリアデザイン協会(https://self-cd.or.jp/)を設立し、キャリアコンサルタント、EAPコンサルタントとして活動中。

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