逮捕された人の「借金」はどう扱われる? もし、死刑になったら…?
京王線刺傷事件の容疑者は「死刑になるつもりだったので、借金は返していない」と供述したそうです。逮捕された人の借金はどういう扱いになるのでしょうか。

京王線の刺傷事件(10月31日)で逮捕された容疑者は消費者金融で借金を重ねて、ホテル代を支払ったものの、「死刑になるつもりだったので、借金は返していない」と供述したと報道されています。一時重体だった被害者も意識を回復したとされており、今回の容疑者が死刑となる可能性は低そうですが、もし、死刑となった場合、借金はどうなるのでしょうか。今回の容疑者に限らず、逮捕された人の借金はどういう扱いになるのでしょうか。弁護士の藤原家康さんに聞きました。
返済期限過ぎれば遅延損害金も
Q.逮捕や起訴、服役などで身柄が拘束されている人がお金を借りていた場合、借金はどういう扱いになるのでしょうか。
藤原さん「身柄を拘束されても借金の扱いは変わりません。通常通り、返済の義務があります。ただ、懲役20年といった長期の懲役刑や禁錮刑の場合、服役中に債権(今回の場合は、消費者金融側が借金や利息、遅延損害金の支払いを容疑者に求める権利)が時効により消滅する可能性があります(最終の支払いから5年で消滅することが考えられます)。そのため、消費者金融側は支払いを求める訴訟の提起などにより、時効の進行を止めることが考えられます」
Q.拘束期間が長期間に及んだ場合、利息はどのようになるのでしょうか。
藤原さん「期限までに返済しない場合、元金と利息に加えて、遅延損害金が発生し、日々加算されることになります。その率は消費者金融の場合、契約の際に定められているのが通常です」
Q.逮捕や起訴、服役などで身柄が拘束されている人が借金を返す意思がある場合、何らかの手段で返済することはできるのでしょうか。
藤原さん「身柄拘束されている本人が消費者金融に借金の返済をすることは、消費者金融への現金の郵送が許される場合は可能です。ただし、実際には、返済をする場合、親族などから返済してもらうことになると思います」
Q.懲役刑の人は刑務作業をすると聞きます。刑務作業で得たお金を返済に充てることはできるのでしょうか。
藤原さん「刑務作業で得られるお金(作業報奨金)は、釈放前の期間は、使用目的が自分で使う物の購入、親族の生計の援助、被害者に対する損害賠償など『相当なもの』と認められるときに支給を受けられるとされています(刑事収容施設および被収容者等の処遇に関する法律98条4項)。
借金の返済を使用目的として支給を受けることができるかは一概には言えませんが、できることも十分考えられます。なお、支給額は原則として、その支給の時における作業報奨金の計算額の2分の1を超えてはいけないこととされており、その使用の目的に照らして適当であると特に認めるときに限り、2分の1を超えた金額を支給することができるとされています(刑事施設および被収容者の処遇に関する規則60条)。
ただし、作業報奨金は法務省によれば、2020年度は1人1カ月当たり平均で約4320円となっており、多額の借金を作業報奨金で返すのは、現実的にはかなり難しいと思います」
Q.殺人などを犯した人で死刑判決が確定した場合、借金はどのような扱いになるのでしょうか。また、死刑が執行された場合、どのようになるのでしょうか。
藤原さん「借金は、死刑判決が確定しても扱いは変わりません。死刑が執行された場合も、借金は通常の相続と同様の取り扱いとなり、相続人に対して支払いの請求がされることになります。相続は、負債(今回の場合は借金)については基本的に、法定相続人がいる場合は、その法定相続人が負うことになります。法定相続人は、例えば、死刑の執行を受けた人に配偶者と子どもがいる場合、配偶者も子どもも法定相続人となります。
独身で元々、子どももいない場合、父母、父母が亡くなっている場合はその父母である祖父母、祖父母が亡くなっている場合はさらに、その父母…とさかのぼり、亡くなっておらず、該当する人は法定相続人となりますが、それらの人が全て亡くなっている場合は、きょうだいが法定相続人となります(きょうだいの一部が亡くなっている場合は、その一部のきょうだいの子は法定相続人となります)。
いずれの場合も、おのおのの法定相続人は相続放棄することができ、また、相続人全員が共同して、限定承認(相続財産にプラスとマイナスがある場合、それらを合算してマイナスになる部分は相続しない)も可能です」
(オトナンサー編集部)
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