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企業活性化に効果? 役員や管理職を社員が“選挙”で選ぶ制度、今後の広がりは?

取締役や管理職を“有権者”の社員が投票で選び、業績を上げたという企業がありますが、こうした取り組みは多くの企業に広がっていません。なぜでしょうか。

役員や管理職を総選挙で選出
役員や管理職を総選挙で選出

 10月31日に衆院選の投開票が行われましたが、過去には社内で“総選挙”を行った企業もあるようです。「取締役や管理職になりたい」と立候補した人が公約を訴え、“有権者”である社員に投票してもらうという、まさに選挙そのもので、その取り組みの珍しさから、時々ニュースになります。

 実施した企業は「業績が上がった」などポジティブに捉えていることが多く、企業の活性化にも効果があるように思いますが、他の企業への広がりは見られません。なぜでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

活性化に効果も課題あり

Q.取締役や管理職を社員が選挙で選ぶという方法はかなり斬新だと思います。投票する社員にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか。

大庭さん「仕事に対する考え方や進め方が自分に近い人を選ぶことが可能で、納得のできる人の下で仕事をするチャンスが得られることがメリットです。組織の中で働く以上、他人が立てた方針や他人の指示に従って仕事をする必要があります。仕事に対する考え方や進め方などに納得がいかない場合であっても、従わなければならないことが多くあります。

このようなことが続いてしまうと、仕事に対するやりがいが失われてしまいます。しかし、自ら取締役や管理職を選ぶことができるのであれば、投票する社員自身も納得のいく仕事ができるようになり、仕事に対するやりがいも得られます」

Q.取締役や管理職になりたい人にはどのようなメリットがありますか。

大庭さん「年齢や勤続年数などに関係なく、上位のポストに就けること、また、自分自身の思いや考えを会社の経営や課題解決への対応に生かせることがメリットです。組織には序列があるため、一般的には、段階を踏まないと上位のポストに就くことはできません。過去の実績に対する評価も影響します。

しかし、選挙で選ばれるチャンスがあれば、時間をかけなくても上位のポストに就くことができます。上位のポストに就くことができれば、会社の経営をよくし、あるいは課題を解決することに直結する仕事に取り組むことができます。そうなることで、仕事に対するやりがいが得られます」

Q.選挙を実施した企業は「業績が上がった」などポジティブに捉えていることが多いですが、社員が選挙で取締役や管理職を選ぶ方法は企業の活性化に効果があるのでしょうか。

大庭さん「効果があります。選挙に立候補する側は会社の経営をよくし、あるいは課題を解決することに対する考えを社内にアピールします。その結果選ばれたのであれば、高い意欲を持って、自らが先頭に立ちアピールしたことを実践し続けるに違いありません。

選んだ側も企業の今後の方針や対応に、納得のいく内容を自らが選択したことになるので、率先して仕事をするようになるはずです。こうしたことにより、労使間や上下間の連携が強化されて、事業の推進や課題解決のスピードが速まり、結果、業績の向上へとつながっていきます」

Q.とはいえ、こうした取り組みがニュースになるのは、まだ一般化していない証拠だと思います。他の企業への広がりが見られないのはなぜでしょうか。

大庭さん「能力の低い人が要職に就くリスクを回避したい、社内の人間関係を乱したくないという思惑が企業に働くからだと考えます。能力のない人が組織をマネジメントすると、企業が必要としている成果を得られなくなるだけでなく、現在抱えている課題がさらに悪化し、あるいは新たな課題が生じてしまう可能性が高くなります。

このようなリスクを排除するために、経験と実績を積んだ人を要職に就かせる対応が一般的なのです。加えて、組織として仕事をすることに関しては人間関係も重要です。自分よりも勤続年数が短く年齢も若い人がいきなり、上司になった場合、その下に就くことになった人のモチベーションは低下します。

長年、“100パーセント実力主義”を貫いてきた企業であれば、そこまで大きな影響は出ないかもしれませんが、段階的な出世を行ってきた企業がいきなり、選挙制を導入してしまうと大きな影響が生じるはずです。さらに、取締役の選任は株主総会での決議が必要となるため、そのことも選挙制が広がらない要因の一つだと考えます。『取締役を総選挙で選んでいる』という会社も実際には『取締役候補』を選んでいるはずです」

Q.今後、こうした取り組みが企業で広がる可能性はあるのでしょうか。

大庭さん「取締役は企業の業績に大きな影響を与えるポストなので、今後、選挙制が広がる可能性は低いのではないかと考えます。一方、管理職はやる気のある人にチャレンジする機会を与えることで、組織が活性化し、人材育成の面でも効果を発揮するため、今後、選挙制は広がりを見せる可能性があると考えています。

実際、社員に『業務の改善』や『組織の課題解決』などへの対応を提案させて、採用された提案に対し、提案者に一定の権限を与えて実行させている企業が多く存在します。この取り組みを発展させ、自らの方針や考えが周囲に認められた人を管理職に登用する人事制度を採用する企業が出てきても、何ら不思議なことではありません」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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