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病院を嫌がる28歳ひきこもり長女、「障害年金」受給に向けて立ったスタートライン

就労が難しいひきこもりの人にとって、「障害年金」は貴重な収入源となりますが、請求するには病院で医師の診療を受ける必要があります。通院できない場合、どうすればいいのでしょうか。

ひきこもりで診療を受けるには?
ひきこもりで診療を受けるには?

 筆者は、ひきこもりのお子さんを抱えるご家族向けの講演会で「障害年金」のお話をすることもあります。働くことが難しいお子さんにとって、障害年金は頼りになる制度であり、お金の不安も少しは和らげることができると思っているからです。この障害年金を請求するには、病院で医師の診療を受ける必要がありますが、ひきこもりのお子さんの中には外出することが難しい人もいます。通院できない場合、どうすればよいのでしょうか。

うつ症状が重い長女

 筆者が講演会で使用する資料はすべて自作で、ご家族が資料を家に持ち帰り、講演会に参加できなかったお子さんが読んでも分かるように作成してあります。そのため、資料を読んだお子さんが何かしらの行動を起こすきっかけになることもあります。

 講演会からしばらくたった後、60歳のある母親から連絡が入りました。

「ひきこもりの長女(28)はうつ状態が重く、とても働ける状態ではありません。長女にも先生(筆者)の資料を読んでもらったところ、長女から、『障害年金の請求をしてみたい』と言われたのです」

「なるほど、分かりました。ちなみに体調を崩された後、初めて病院に行った日、つまり、『初診日』はいつごろになりますか」

 すると、母親は数秒黙った後、困惑した口調で答えました。

「実は体調を崩した後は一度も病院に行ったことがないのです…」

「えっ!」

 筆者は思わず、驚きの声を上げてしまいました。

 障害年金を請求する時期は原則、初診日から1年6カ月が過ぎたときです。体調を崩した後、今まで一度も病院に行ったことがない、つまり、「初診日がない」ということは、そもそもスタートラインにも立てていない状態です。

 筆者が絶句していると、母親は長女のことについて語りだしました。

「体調を崩し始めた当時は何とか外出もできていました。でも、病院に行くことだけはすごく嫌がっていたのです。そのうち、どんどん症状が重くなってしまい、今ではまったく外出することができなくなってしまいました。外に出て、病院まで通うなんて、とてもできそうにありません。一体どうすればよいのでしょうか…」

 そう話す母親の声はどんどん暗くなっていきました。

自宅でも診療は受けられる

 長女の話を聞いた筆者は母親に、ある提案をしました。

「最近では『訪問診療』、つまり、定期的、かつ計画的に自宅まで医師が来て、診療することを実施している病院も増えているようです。実際に訪問診療を利用しているひきこもりのお子さんもいますし、検討の余地はあると思います」

「それは知りませんでした。でも、そのような病院はどうやって探せばよいのですか」

「『保健所、または精神保健福祉センターで相談をしてみる』『インターネットで探してみる』といった方法があります。娘さんの状態を考えると、インターネットで探す方がよいかもしれませんね。ホームページの写真や文章から、病院や医師の雰囲気を感じ取ることもできるでしょうし」

「分かりました。長女にもそのように話してみます」

 母親はそう答えました。

 それから数カ月後、母親から連絡がありました。「長女が自宅で医師の診療を受けることができた」という、うれしい知らせでした。せっかくなので、筆者は母親からその経緯を伺いました。

 母親から、訪問診療の話を聞いた長女は「自宅で受けられるならやってみたい」という反応を示したので、親子で病院を探すことにしたそうです。よさそうな病院を見つけ出し、母親が病院に連絡。医師が自宅まで来てくれることになりました。

 しかし、ここで問題が起こりました。当日、長女は医師に会うことができなかったのです。長女は家族以外の人と10年以上、会話したことも顔を合わせたこともありません。当日は「医師に一体何をどう話せばよいのか」と緊張と不安がピークに達してしまい、どうしても診療を受ける決心がつかなかったそうです。

 そのため、その日は母親と医師が1階のリビングで話をすることになりました。長女はというと、2階の自室から出て、階段を途中まで降り、そこで息をひそめながら、2人の会話に聞き入っていたそうです。

「長女は医師と会えず、母親と医師がリビングで話をする」といった状態がしばらく続きました。医師は帰り際、2階にいる長女に向かって、あいさつや声掛けをするようになりましたが、長女の反応はありませんでした。それでも、長女と医師との信頼関係は少しずつ構築されていったようです。数カ月たった頃、長女は初めて、医師の診療を受けることができたとのことです。この日が障害年金の初診日となることでしょう。

 筆者は母親に言いました。

「初診日から1年6カ月が過ぎたときに障害年金を請求することができます。よって、請求に向けて動き出すのはその1カ月くらい前です。それまで、訪問診療を受け続けるようにしてくださいね」

「分かりました。そのときになったら、ぜひ、先生(筆者)にご連絡し、障害年金の請求をしていただこうと思っています。そのときはどうぞよろしくお願いいたします」

 母親の声は幾分、元気を取り戻したように感じました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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