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真相はやぶの中? 教員免許更新制の廃止「方針」

大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

萩生田光一文部科学相(2021年4月、時事)
萩生田光一文部科学相(2021年4月、時事)

「教員免許更新制廃止へ」――。7月10日夜から11日にかけて、こんなニュースが各社から報道され、大きな話題を呼びました。10年ごとに30時間以上の講習受講などが必要な「教員免許更新制」は、現場の教員の負担になっており、「教員不足の一因」との声もあるからです。しかし萩生田光一文部科学相は13日の定例会見で、「現段階では廃止(の方針)を固めたという事実はない」と否定しています。いったい、どうなっているのでしょうか。

各紙が報じたけれど…

 廃止方針について最も早く報じたのは、毎日新聞でした。土曜夜9時過ぎにYahoo!ニュースに配信されると、約8500件ものコメントが付き、内田良名古屋大学大学院准教授も「ついにこのときが来たか」との感慨を寄せていました。

 日曜の在京各紙の朝刊を見ると、毎日(1面肩)だけでなく、読売新聞が1面トップで報じた他、産経新聞は総合面で2段見出しと比較的小さい扱いでした。NHKも朝のニュースで流していました。月曜の朝刊は休刊のため、日本経済新聞は夕刊1面に4段見出しで、朝日新聞は火曜の朝刊社会面に3段見出しで、それぞれ報じています。

 ところが、先述したように、萩生田文科相は13日の閣議後定例会見で、記者の質問に答えて「本年3月、中央教育審議会(中教審。文科相の諮問機関)に対して何らかの前提を置くことのない抜本的な検討を行うよう諮問し、現在まさに真剣な議論をいただいている途上。方向性について結論を導き出すには至っていない」と述べ、廃止方針を固めたという報道を否定しました。

中教審での議論は停滞

 その中教審では4月、総会直属の特別部会の下に「教員免許更新制小委員会」を設け、集中的な討議を行っています。これまで小委員会は3回開かれていますが、更新制を巡っては、委員の間でも賛否両論の意見が出ています。萩生田文科相が言う通り、方針が固まる段階にはありません。

 ただ、小委員会の主査で、教員養成部会長も兼任する加治佐哲也兵庫教育大学長は、5月に開かれた第2回会合の最後に、「更新制をはっきり言って存続させるのか、廃止させるのか、一定の結論を出し、その上でさらに議論を進める必要がある。事務局(文科省担当課)には、次回の委員会で議論できるように準備してほしい」と述べていました。

 しかし7月5日の第3回会合には、それらしい資料の提出もなく、加治佐主査も「前回も申し上げた通り、更新制を存続するのか廃止するのか、引き続き準備を進めてほしい」と繰り返すにとどめました。

 このように、中教審での議論が停滞していたさなかの「廃止方針」報道だったのです。映画にもなったテレビドラマのせりふではありませんが、まさに政策が「会議室で起きてるんじゃない」ことをうかがわせるような騒ぎです。もっとも「現場」がどこなのか、今のところ、やぶの中です。

代わりに教員研修を強化?

 一方、萩生田文科相は13日の会見で、報道を巡って「廃止だけ書いている社もあるが、研修の必要性は全く変わっていない。そこは改めて強調しておきたい」とも述べています。

 確かに3月の諮問は、前期中教審(2019年2月~2021年2月)に続き、「教員免許更新制や研修を巡る制度」について、抜本的な見直しを行うよう求めたものです。更新制を廃止するにしても、その目的だった「(教員が)自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ていく」(2006年7月の中教審答申)ために、教員研修の強化がセットになるものとみられます。

 中教審の小委では、子どもにも1人1台の端末が配備されるなど、学校の情報通信技術(ICT)化が進むのに合わせ、個々の教員の研修履歴も、デジタルデータで細かく蓄積してはどうかという案も浮上しています。

 仮に教員免許更新制が廃止されても、強化された研修の受講や、その記録などに振り回されては、教員の多忙化にますます拍車が掛かるのではないか…と、今から心配になる状況なのです。

(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)

渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。

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