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五輪選手のワクチン優先接種、五輪用医師募集…進め方に問題はない?

最悪の事態も想定を

Q.大阪府では、入院療養が必要な感染者が入院できないケースが増えています。そうした中、五輪用に看護師約500人、スポーツドクター約200人の募集が行われているとの報道がありました。菅義偉首相は看護師募集について、「休んでいる方(看護師)も多いと聞いている。可能と思う」と発言しました。五輪が開催された場合、医療従事者不足で入院できないまま亡くなった人の遺族などが国や大会組織委員会を訴えることはできないのでしょうか。

佐藤さん「五輪が開催され、医療従事者の不足で入院することができず、不幸にも亡くなった場合であっても、五輪開催の決定権はIOCにあるため、国や大会組織委を訴えることはできないでしょう。また、開催を拒否しなかった日本の判断を違法と主張し、『五輪開催のせいで亡くなった』と因果関係を証明することも困難だろうと思います」

Q.では、ワクチン優先接種や、医療が逼迫(ひっぱく)する中での五輪用医療従事者の募集について、法的措置は何も取れないのでしょうか。法的措置が無理であれば、何らか声を上げる方法はないのでしょうか。

佐藤さん「ワクチン接種の優先順位や五輪用医療従事者の募集について、裁判などの法的措置を取ることは難しいです。裁判などの法的措置を取るためには、個人としての具体的な権利侵害を主張する必要がありますが、『五輪の選手を優先接種の対象にしたことにより、または五輪用医療従事者を募集したことにより、私の権利が侵害された』と主張することは困難だからです。

こうした問題は政治が責任をもって判断すべき事柄であり、有権者に対して直接、政治責任を負うことのない司法府が判断することは適切ではないとも考えられます。多くの国民の声を政治に届けるためには、署名活動に参加するといった方法も有効でしょう。実際、『五輪開催中止』の呼び掛けをしたオンライン署名が今、注目を集めています」

Q.今回の件で、東京五輪への反対の声がさらに強まっており、読売新聞の世論調査でも「中止」を求める声が過半数となっています。そうした点も含め、ワクチンの優先接種や医療従事者の募集について、言及したいことはありますか。

佐藤さん「五輪選手にワクチンを優先接種する問題も、五輪用に医療従事者を募集する問題も、日本の医療を守りながら実施することが現実的なのか、根拠を示して、具体的に議論すべきだと思います。『安心、安全』という抽象的な言葉だけでは国民の不安は消えず、五輪開催を受け入れることは困難でしょう。

医療の状況によっては、まさに国民の生命がかかっています。甘い見通しを捨て、最悪の事態を想定した上で『安心、安全』といえるのかどうか、十分な検討が求められていると思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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