他人のセーターの毛玉を…障害者が悪気ない行動で“犯罪者”にならないために
福祉とつながっておく
保護者会では警察から、「李下(りか)に冠を正さず」との言葉がありました。「疑われるようなことはあえてするな」という意味です。警察官も痴漢と間違われないように、電車に乗るときは手を上にしたり、自分の胸の辺りで組んだりしているそうです。
「毛玉を取りたい」というこだわりがある人や、教えられてきたルールの応用ができない人がもし、これらのことで注意されたら、混乱して警察を怖がることにつながってしまうかもしれません。
「こういう場合はこう」と臨機応変に対応できない障害児や、見た目は健常者に見える障害児にとってはなかなかハードルが高いですが、「毛玉を取るのは自分とお母さんのセーターだけにしようね」「スクールバス以外では知らない人と離れて座ろう」「同じマンションに住む人にはマンション内であいさつしても、外で知らない人にはあいさつしないようにしよう」などと根気強く教えていかなくてはならないと思いました。
また、発達障害を持つ人が逮捕されたとき、誘導尋問にかかりやすいと聞いたことがあります。例えば、逮捕された場合に次のようなやりとりがあったとします。
刑事「君がやったんだね?」
本人「君がやったんだね」
もし、このように完璧な「おうむ返し」をすれば、知識がある刑事なら、「あれ、おかしな日本語だな。もしかして、この人は自閉症かな」と分かるかもしれません。また、大人になってもこの状態であれば、恐らく、療育手帳を幼児期から持っているでしょうから、障害者であることが証明されます。
しかし、知的障害の度合いが軽過ぎて療育手帳を持っておらず、刑事が発した言葉の後半部分、さらに「ね」を省略して「やったんだ」と返したり、刑事から、「君がやったんだね」と詰め寄られて、条件反射で「やりました」と反応したりしたら…もしかすると、誤認逮捕されるかもしれません。
日本の福祉は自己申告制です。親がわが子の障害に気付いて、積極的に動くことで療育手帳を取得できます。療育手帳が取れなくても、障害福祉サービス受給者証や精神障害者保健福祉手帳を取って、福祉とつながり、発達の凸凹があることを第三者に知らせておくことは可能です。それがわが子を冤罪(えんざい)から守ることにつながるのです。
(子育て本著者・講演家 立石美津子)
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