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プロなら泣くな? ホークス周東選手がエラー、ベンチで涙する姿に賛否 専門家は?

試合中、失点につながるミスをしたプロ野球選手がベンチで涙を流すことは「是」か「非」か、ネット上でさまざまな声が出ています。専門家の見解を聞きました。

周東佑京選手(2020年8月、時事)
周東佑京選手(2020年8月、時事)

 プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの内野手で、俊足を買われて日本代表にも選ばれている周東佑京選手が9月12日の埼玉西武ライオンズ戦で2つのエラーを犯し、その後、ベンチで涙目になっている姿がテレビ中継され、ネット上で話題となりました。SNS上では「もらい泣きした」「この涙を糧に頑張って!」「先輩たちも失敗して成長した」と好意的な声の一方、「プロなら試合中に泣くな」「泣くのは試合が終わってから」など否定的な声もあります。

 プロ野球でミスをした選手が「試合中に泣く」ことの是非について、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。

真剣な取り組みの証左

Q.プロ野球でミスをした選手が試合中、ベンチで泣くことについて、どう思われますか。

江頭さん「自分のミスを嘆いて、ベンチで涙することは否定しません。引退試合や優勝決定戦で感極まって、試合中に涙してしまったケースも過去にはあります。試合中であっても、そういった涙は否定しません。

話題になっている周東佑京選手の場合、涙を流したのは試合に真剣に取り組んでいるからに他なりません。プロ野球の場合、シーズンの試合数が多く、リーグ優勝ラインが勝率6割に届かないことも珍しくありません。優勝チームでも4割以上のゲームで敗戦し得るのです。そのため、1試合の敗戦では、プレーヤーがダメージを受けない習慣が身に付きます。

周東選手の場合、悪送球が失点の原因になりましたが、試合には負けませんでした。『プロとして失敗は許されない』という意見に反対はしませんが、プロは試合数も多く、守備回数も多いため、ミスは避けられません。人間工学で、ヒューマンエラーは1%から0.0001%の確率で起こるとされています(H.W.Heinrich「ハインリッヒ産業災害防止論」より)。

注目したいのは、ミスに至った過程です。この日の2つ目のエラーは、一塁に送球していれば確実にアウトがとれる状況でした。しかし、走者を二塁上でアウトにした方が失点確率が下がるため、タイミングギリギリの二塁に送球するという判断を周東選手はしたのです。いわば、挑戦をした結果のミスです。

スポーツマンシップでは、『失敗を恐れず挑戦すること』を推奨しています。また、挑戦したことによる失敗をコーチは責めない、ともされています。ですから、周東選手がベンチで涙しているとき、チームメートやコーチは励ましはするものの、責めてはいませんでした」

Q.テレビ中継の解説者からは「プロであれば、試合中に泣いてはいけない」という言葉も出ました。SNSでも同様の声があります。

江頭さん「プレーに支障が出てはいけませんから、守備中にボロボロ泣き出すのは解説者の言う通り許されないでしょう。しかし、周東選手の場合、ベンチに戻ってからの涙です。ベンチでは次のプレーに向けて、アンダーシャツを着替えたり、軽食を取ったり、トイレに行ったりすることが許されています。ベンチにいる間に泣くことは何の問題もありません。ベンチで気持ちを切り替えて、グラウンドでベストのパフォーマンスを維持することが重要です。

解説者の発言は、プロ野球は優勝チームでも4割以上敗戦することがありますから、『プロがエラーくらいで泣くな』という意味ではないでしょうか。少年野球の試合中にエラーでいちいち号泣されたら、ベンチの中は泣き声ばかりで試合にならなくなるでしょう。『子どもに手本を示す』プロ野球選手が泣くことを『よし』とされると、少年野球の指導者は困るでしょう。そんな意味も込めて『泣くな』という発言になったと思います」

Q.大きなミスをした選手は、その後の試合中での態度はどうあるべきでしょうか。

江頭さん「最高のパフォーマンスをすることです。スポーツマンシップでは、ミスを責めません。チームメートも『君のエラーを全員で攻めて取り戻すから気にするな』『ドンマイ!』と声を掛けることが理想的です。ミスを引きずらないことです。次のミスを恐れていると体が萎縮してしまい、パフォーマンスが落ちます。気持ちも体も切り替えて、ミスはきれいさっぱり忘れ、元気いっぱい、試合開始からやり直すくらいの新鮮さを持って、グラウンドに戻るのが理想的です」

Q.その選手は試合終了後、どうあるべきでしょうか。

江頭さん「失敗は成長への足掛かりになります。試合中はミスをきれいさっぱり忘れる必要がありますが、次の試合までに修正を終えていることが求められます。なぜ失敗したのか、原因をはっきりさせて、体が記憶するまで反復練習をすべきでしょう。ここで大事なのは『居残り』ではなく、『次の試合』までに修正することで、時間に余裕があれば、居残りは避けた方ががいいでしょう。

昔ながらの日本の体育指導者は罰として『居残り練習』をさせていましたが、世界基準のスポーツ文化では、あり得ません。試合の後は体を休め、コンディションを整えて、心身ともにクールダウンして、次の試合に向かうことが大切です」

Q.涙を見せた周東選手に対し、他の選手やコーチは慰めていたようです。こういったケースで周囲はどうあるべきでしょうか。

江頭さん「適切な対応だと思います。ソフトバンクのコーチや選手はスポーツマンシップをよく理解しているようです。繰り返しになりますが、スポーツマンシップでは、ミスを責めません」

Q.試合後、ネット上ではさまざまな議論が起きています。ファンの立場として、あるべき姿を教えてください。

江頭さん「失敗には種類があって、挑戦した結果の失敗と、練習不足や怠惰が原因の失敗とがあります。前者の失敗を責めてはいけません。挑戦しないスポーツは面白くないですから。

挑戦しない、『前例がないからやめておく』と、硬直化した古い組織のようになったらおしまいです。そういった古い組織は『挑戦した結果の失敗』に対しても、罰を与えるものです。古い日本の体育指導者の言動は、反スポーツマンシップ的であることが少なくありません。スポーツでは、試合結果によって基本的に『罰』を与えるべきではありません。また、プロでも失敗はします。100回のうちミスを1回することは容認してください。どれだけ練習していても、避けられないミスが存在します。

ファンとしては、ミスや失敗の後の成長を注視することをおすすめします。周東佑京選手の場合、今回のエラーと同様の状況でどんなプレーを見せるか、どんな成長をしたかを楽しみにして、見ていただきたいです」

(オトナンサー編集部)

江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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