勝っていたらバント禁止 スポーツの「暗黙のルール」、アンフェアでは?
日本のプロ野球や米国の大リーグでは、勝負がほぼ決した試合では、優勢なチームは攻撃の手を緩めることが決まりです。こうしたスポーツの「暗黙のルール」は必要なのでしょうか。
日本のプロ野球や米国の大リーグでは「大量の得点差で勝負がほぼ決した試合では、勝っているチームが盗塁やバントをしてはいけない」という「暗黙のルール」があります。盗塁やバントを行おうものならば、「マナー違反」ということで、勝っているチームの打者が報復のデッドボールの対象になるそうです。
しかし、このような、相手チームに手加減をしなければならないという「暗黙のルール」はフェアプレーの精神に反しているようにも思える上、こうしたルールはルールブックには記載されず、公式に認められていない場合がほとんどです。
なぜ、「暗黙のルール」が存在し続けているのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。
ポジティブなルールも多数存在
Q.スポーツの「暗黙のルール」とは何ですか。どのようなものがあるのか、具体例を幾つか教えてください。
江頭さん「『暗黙のルール』とは、英語で『unwritten rules』と表現され、“不文律”と訳されることが多いです。要するに、スポーツの競技において、わざわざ言わなくても守るべきことという意味です。『暗黙のルール』はネガティブに捉えられがちですが、スポーツマンシップにのっとったポジティブな事柄も多く存在します。
例えば、日本のプロ野球では、打者はホームランを打っても大げさにガッツポーズをしたり、わざとゆっくりダイヤモンドを回ったりしてはいけない(サヨナラの場合を除く)▽デッドボールを受けても、派手に痛がってはいけない▽打者が打席に入る際、球審や捕手の前を横切ってはいけない――などがあります。
一方、ラグビーでは、どんなに大差がついても、勝っている側も最後まで攻撃を続けるという『暗黙のルール』があります。1995年のラグビーワールドカップ南アフリカ大会において日本代表は、ニュージーランドに17対145と1試合最多失点の大会記録で敗れています」
Q.プロ野球や大リーグにおいて、勝負がほぼ決した試合の「暗黙のルール」として、勝っているチームが対戦相手のために手加減をするのはなぜでしょうか。
江頭さん「手加減をしているのではなく、対戦相手に敬意を払っているのです。スポーツは『勝利至上主義』に偏ってきていますが、勝敗だけがスポーツであってはならないのです。勝つことよりも大事なことは、自分自身と同様、対戦相手にも最高のパフォーマンスをしてもらうことです。
大差がついて、勝負がほぼ決している場合、勝っているチームが攻撃の手を緩めず、さらに点数を加えていくと、負け試合を任された投手の防御率などの個人成績が極端に悪化してしまい、今後の出場機会を失う危険性があります。その日、たまたま調子が悪かっただけで、普段は素晴らしいピッチングをしていても、です。こうした実態と異なる悲劇を生まないため、大差がついたら必要以上の攻撃をしないのがマナーとされているのです。
また、プロ野球で大差がついた場合に盗塁をしないのは、けがを避けるという意味もあります。盗塁のクロスプレーで骨折して、そのシーズンを棒に振ってしまうリスクを考えると、大差がついた試合でリスクを取る必要はないわけです。大差がついた試合でエースピッチャーを交代させて温存することと、盗塁をしないことは同じ原理に基づいています」
Q.なぜ、スポーツにおいて「暗黙のルール」が存在し続けているのでしょうか。
江頭さん「スポーツには、相手チームや自分(チームメート)、ルール、審判を敬うスポーツマンシップが大事であり、暗黙のルールはそれを守るために存在するからです。プロでもアマチュアでも、スポーツの目的は勝利だけではありません。スポーツは試合中の選手同士の駆け引きなど、試合を楽しむものでもあるのです。
そうした試合を楽しむために、相手チームに敬意を払う『暗黙のルール』があれば、守っていく必要があるでしょう。問題は『暗黙のルール』に反した選手に対する報復です。反スポーツマンシップ的で、選手にけがをさせる可能性もあります」
Q.「暗黙のルール」というあいまいな状態にするのではなく、ルールブックに記載して「正式なルール」とするのは難しいのでしょうか。
江頭さん「スポーツの明文化されたルールは、勝敗を決めるために定められたものです。相手チームなどに敬意を示す(暗黙のルール)ことは、選手自身の気持ちや行動であるため、明文化する必要はありません。
もし、『暗黙のルール』までルールブックに記載してしまえば、思いやりや気配りをする必要がなくなり、言われたことだけしかできない『指示待ち人間』をスポーツが育ててしまうことになります」
(オトナンサー編集部)
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