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母亡き後、月収わずか5万4000円 55歳ひきこもり長女に必要な日々の家計管理

母親と暮らす55歳のひきこもりの女性が将来、1人で生きていくには、どのような対策が必要でしょうか。

親亡き後、長女はどう生きていけば…
親亡き後、長女はどう生きていけば…

 82歳の女性が、ひきこもりを続ける55歳の長女と一緒に相談にやって来ました。話を聞くと、現在は2人暮らしで、収入は母親の公的年金だけです。このまま何もしなければ、親亡き後、長女の生活は破綻しますが、頼れる身内もいない長女に今からできる対策はあるのでしょうか。

まずは「年金収入」「財産」を確認

 母親は数カ月前に夫を亡くし、収入は母親の公的年金(老齢年金と遺族年金)のみとなりました。年金額を月額換算したところ、約15万円です。この金額で親子2人の生活を支えていかなければなりません。母親は言いました。

「私が生きている間は、親子で何とか生活していけると思います。ですが、私が亡くなった後、私の年金収入はなくなってしまいますよね。その後、長女のお金がどのようになるのか…頼れる身内もいないので、一緒に考えてもらいたいのです」

 母親の隣に座っている長女も、心配そうなまなざしを筆者に向けました。

 親亡き後のお金の見通しを立てる場合、まずは親の財産と子の年金収入の確認から始めます。貯金は400万円ほど、自宅は持ち家だそうです。

 次は長女の年金収入の確認です。長女の「ねんきん定期便」を見ると、65歳から月額換算で約4万7000円の老齢基礎年金がもらえそうです。さらに、長女は老齢年金生活者支援給付金がもらえる条件を満たす可能性があるため、その金額も確認しました。筆者が試算したところ、月額で約7000円です。老齢基礎年金と合わせて、月額で約5万4000円の収入になる見通しを立てました。

 この見通しに対して、母親は不安を口にしました。

「月5万円ちょっとですか。これでは、とても生活できませんよね」

「不安をそのままにするのは精神的によくありません。今から対策について話し合ってみましょう」

 筆者は親子に向かってそう言い、まずは母親の財産の活用から検討しました。母親には貯金と自宅があります。しかし、貯金は400万円ほどのため、万が一の出費のために取り分けておく方が望ましいと判断しました。

 次は自宅の活用です。母親亡き後、自宅を売却して住み替えをし、残ったお金を生活費に充てていくという方法も考えられますが、長女は複雑な表情を浮かべ、胸の内を語りました。

「自宅は地方にあるので、大した金額では売れないと思います。新しい場所は不安もあるので、『できれば、今ある自宅に住み続けたい』という気持ちが強いです」

 長女の意見も踏まえ、母親亡き後も自宅に住み続けるということで話を進めることにしました。

 長女の収入を増やすため、障害年金の受給も検討します。長期間、ひきこもっているお子さんの中には、精神疾患を発症しているケースも見受けられます。障害年金を受給するためには、さまざまな条件を満たす必要がありますが、受給できれば収入の見通しはかなり改善します。

 長女は月に1度、メンタルクリニックへ通院しています。医師からは抑うつ状態と診断され、薬を毎日飲んでいるようですが症状はかなり安定し、今のところ、障害年金が受給できるほどには症状は重くないようなので、障害年金の請求は見送ることにしました。

 最後に就労の検討です。筆者は次のような提案をしてみました。

「就労と聞くと、正社員を思い浮かべるのではないでしょうか。週5日でフルタイム、残業ありといったイメージを持つと、『就労は無理』となるかもしれませんが、就労にはさまざまな形態があります。アルバイトやパートでも構いません。月に数万円稼げるようになると、将来の見通しは大きく改善します。仕事を始めることに自信がなければ、就労支援先も一緒に探します」

 これに対して、長女はうつむきながら申し訳なさそうにつぶやきました。

「20代の頃にアルバイトをいくつかやってみましたが、いずれも長続きしませんでした。その後はずっと家にこもっており、今年でもう55歳です。今から、仕事をする体力も気力もありません」

 しばらく、沈黙が続きました。なかなか、改善策が見いだせない中、気落ちする親子に筆者は次のように言いました。

「私もあまり詳しくありませんが、生活保護も確認しておきましょう」

 その提案に親子は硬い表情のままうなずきました。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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