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母亡き後、月収わずか5万4000円 55歳ひきこもり長女に必要な日々の家計管理

「生活保護があるから安心」ではない

 生活保護について、母親は疑問を口にしました。

「自宅があると、生活保護は受けられないのではないでしょうか?」

「自宅の売却を求められるかどうかは、市役所の福祉課の判断によります。売却額が低く、あまり価値がないと判断された場合は、そのまま自宅に住み続けられるケースもあるようです」

 それを聞いて、親子は少しほっとした様子を見せました。さらに長女が質問しました。

「生活保護になった場合、金額はどのくらいになりますか?」

「そうですね。実は、生活保護には生活扶助(生活費の援助)、住宅扶助(家賃の援助)、医療扶助、介護扶助などいろいろあります。自宅に住み続けて生活扶助だけを受けられたとすると…」

 筆者は親子が居住する自治体のサイトを調べました。

「生活扶助は月額7万2000円くらいでしょうか」

「7万2000円ですか。私(長女)の年金と合わせると何とかなりそうですね」

 その言葉を聞いて、長女が誤解をしている可能性が高いと気付いた筆者は、次のような説明をしました。

「残念ながら、7万2000円が全部もらえるわけではありません。ご長女には年金収入があるので、その差額分しかもらえないのです。さらに、もっと注意しなければならないことがあります」

 筆者は白紙の用紙に次のようなことを書き出しました。

・生活保護は毎月支給
・公的年金は偶数月の15日に支給(※2カ月に1回の支給)
・生活扶助は1カ月当たり7万2000円とする。公的年金が1カ月当たり5万4000円とすると、生活扶助は公的年金との差額で1カ月当たり1万8000円の支給
・偶数月:生活保護1万8000円(年金との差額分)+公的年金10万8000円(2カ月分)
・奇数月:生活保護1万8000円(年金の支給はなし)

 長女の顔から血の気が引きました。

「生活保護を受けられたとしても、生活費は月当たり7万2000円。かなり厳しいですね。しかも、奇数月は年金の支給がないなんて。年金を毎月支給してもらう方法はないのですか?」

「それはできません。公的年金は『2カ月に1度、偶数月の15日に振り込む』というルールになっているからです。ですから、もし、偶数月にお金を使い過ぎてしまうと、次の奇数月の生活費が足りなくなってしまいます」

「じゃあ、一体どうすればよいのでしょうか?」

「例えばですが、『偶数月に入ったお金を1カ月分ずつに分けて封筒に入れて管理する』『家計簿をつける』などでしょうか。ご本人に合ったやり方を見つけてください。家計管理はお母さまが亡くなる前からできますから、今から親子で練習してみるとよいでしょう」

 長女は小さくため息をつき、落胆した様子で言いました。

「『生活保護があるから安心』ではないんですね…いろいろと考えて準備しておかないといけませんね」

「そうですね。『将来、生活保護を受けるつもりだから、対策なんて関係ないし、今は何もする必要はない』といったことをたまに耳にしますが、現実はとても厳しいです。お金はそんなにもらえませんし、家計管理もしっかりやらないと生活が回らなくなる恐れがあります」

「分かりました。母に手伝ってもらって、家計管理に挑戦してみようと思います」

 それを聞いた母親は「そうしましょう」と何度も小さくうなずきました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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