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式簡素化、観客削減…東京五輪のスリム化、識者の受け止めは? コロナ機に“革命”?【#コロナとどう暮らす】

新型コロナウイルスの影響で延期が決まった東京五輪について、開閉会式の簡素化や観客の削減が検討されています。その意味や影響について、識者に聞きました。

リオ五輪の開会式では、さまざまなショーが行われた(2016年8月、EPA=時事)
リオ五輪の開会式では、さまざまなショーが行われた(2016年8月、EPA=時事)

 新型コロナウイルスの影響で1年延期が決まった東京五輪について、開閉会式の簡素化や観客の削減が検討されています。延期による追加経費の捻出や、新型コロナが終息していない場合に備えた感染拡大防止のためですが、2021年7月に開幕できたとしても、近年の五輪とはかなり違う大会になりそうです。さらに、7月5日投開票の東京都知事選では、開催の是非が争点の一つになっています。

 東京五輪開閉会式の簡素化や中止の可能性について、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学准教授の江頭満正さんに聞きました。

ショーのための巨額費用は不要

Q.東京五輪開会式の簡素化という方向について、どのように受け止めますか。

江頭さん「近年のオリンピックの開会式は、開催国の威信をかけて華々しく行われてきましたが、開催国の歴史絵巻のようなショーは、オリンピックにとって重要ではありません。近代オリンピックの父、クーベルタン男爵の理念に基づく『Olympic Movement』はスポーツを通じて、友情、連帯、フェアプレーの精神を培い、相互に理解し合うことで、世界の人々が手をつなぎ、世界平和を目指す運動のことです。

古代オリンピックに倣えば、開会式は選手入場と選手宣誓、オリンピック旗の掲揚と聖火の点灯があれば、極端な話、開催国のスピーチも、IOC(国際オリンピック委員会)のスピーチも重要ではありません。まして、ショーがなくても開会式は成立します。オリンピックがエンターテインメント化することに反対はしませんが、ショーのために巨額の費用を投じる必要はありません。新型コロナの影響で、ぜい肉を落とすことができるのなら、オリンピックにとってはいい機会になると思われます」

Q.開会式簡素化のメリット、デメリットを教えてください。

江頭さん「ショーがなくなることは、肥大化したオリンピックが『ダイエット』を行ういい機会になります。もちろん、費用も節約でき、国民の負担も軽くなる可能性があります。

デメリットは、日本のエンターテインメントを世界に発信するチャンスを失うことです。クールジャパンと呼ばれる、日本で創作されたコンテンツの輸出は、まだまだ伸びる余地があります。アニメや漫画、ゲーム、コスプレなど日本のサブカルチャーを愛好する外国人の中には、現代の日本ならではの開会式を楽しみにしていた人も少なくないでしょう」

Q.閉会式も簡素化が検討されています。どのように思われますか。

江頭さん「閉会式はショーの要素が少なく、選手の入場も整列せずに、カジュアルな雰囲気で行われるのが最近の慣習のようです。予算削減という意味では、さほど大きな変更はないと思われます」

Q.観客席の削減、あるいは無観客となった場合、選手や会場運営への影響、大会収支や経済効果への影響は。

江頭さん「選手への影響については、確実なことを言うのは難しいですが、さほど大きくないと考えられます。

オリンピック種目は、サッカーやバスケットボールといったプロリーグがある一部の例を除き、大観衆の前で見せるための競技を普段は行っていません。純粋に競技者の技能を競う『競技会』が日常なので、無観客で静かな会場の方が、平常心でゲームに臨むことが可能になるかもしれません。無観客でもゲームはテレビで中継され、世界中の人の注目を集めるので、オリンピックとして不十分な形にはならないと思います。

ビジネスの面では、チケット収入がなくなったり減少したりするので、ダメージはありますが、オリンピック全体の予算から考えると十分リカバー可能な額です」

Q.東京五輪全体の簡素化について、見解をお聞かせください。

江頭さん「過去にもオリンピックが肥大化し、赤字開催に陥って立候補する都市がなくなった時期があります。そのピンチから、1984年のロサンゼルス五輪でマーケティング手法を取り入れて黒字のオリンピックに変化させ、オリンピック開催立候補地が増加に転じました。2021年に予定されている東京大会は、新型コロナの影響で簡素化され、低予算、少ない観客、ショーやエンターテインメント要素をそぎ落とすことで黒字化できたら、『革命』になるかもしれません。

巨大なスタジアムがなくても開催できるオリンピックになれば、多くの都市が立候補するでしょう。招致合戦に勝つために、華々しくする傾向にヒートアップせず、競技者が最高のパフォーマンスを発揮できる季節や天候を優先し、非常時にダメージが少なくなる医療や、安全な開催を重視する傾向に変化するかもしれません。

東京大会は、巨額の予算を2週間あまりのスポーツイベントに使う予定でした。招致合戦の際に提案した内容は、過剰すぎたとしても内容を変更することは許されませんでした。それは、五輪を誘致した際の公約違反になるからです。しかし、新型コロナの影響によって、ぜい肉をそぎ落とし、低予算化することが『善』となりました。東京大会にとっても、オリンピック自体にとっても、行き過ぎた商業主義を見直すきっかけになったことは間違いありません」

Q.東京五輪は開幕を1年延期しましたが、中止論もまだ根強く、都知事選の争点の一つにもなっています。新型コロナの第2波などで来夏の開催が難しくなった場合、どうなると考えられますか。

江頭さん「今までの概念にとらわれず、世界一を決める競技大会が『オリンピック』として開催されることを期待します。オリンピックは競技者のものです。ビジネス目的でも、観客のためでもありません。世界一の競技者を決める大会です。

この目的を達成することだけに集中すれば、無観客でも、長期間かかっても、会場が分散しても、開催は可能だと思います。全競技が終わるまで2カ月かかってもいいのです。出場する競技者に不公平にならなければ、テニスも陸上も水泳もサッカーも、数多くの競技を過密スケジュールで一斉に開催しなくても世界一は決められます。ただ、『Olympic Movement』の『友情』に関しては、少し犠牲になるかもしれません。イタリアのサッカー競技者とアメリカの水泳競技者が友情を育む機会は減りますので。

新型コロナを機会に、オリンピックが変わればいいのです。今までの伝統や慣習は、パンデミック(世界的大流行)を引き起こした感染症の前には無意味です。ぜい肉を全部落としてスリムになり、コロナに負けないオリンピックに変わるチャンスです」

(オトナンサー編集部)

江頭満正(えとう・みつまさ)

尚美学園大学准教授

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年、尚美学園大学教員となり、現在に至る。

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