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「コソッとお腹いっぱい」 奈良とんかつ店の無料食堂、批判乗り越え2年 コロナ禍でも奮闘

奈良市にあるとんかつ店が「無料食堂」という取り組みを始めて2年がたちました。現状はどうなっているのでしょうか。

無料食堂の張り紙(まるかつ公式ツイッターより)
無料食堂の張り紙(まるかつ公式ツイッターより)

「お腹(なか)がすいてもお金がないときや、お子さんにおいしいものをお腹いっぱい食べさせてあげたいときは、コソっと店長に相談してください」

「そのときは、店長のおごりで、コソッと無料でお腹いっぱい食べてもらいます」

「お代は出世払いでもいいですし、忘れてもらってもいいです。少しでも元気を出すきっかけになればうれしいです」

 2018年5月4日、奈良市神殿(こどの)町のとんかつ店「まるかつ」の店頭に、こんな張り紙が掲げられてから2年がたちました。「まるかつ無料食堂」というこの取り組みはSNS上で話題となり、マスコミにも取り上げられて全国的な有名店にもなりましたが、新型コロナウイルスの影響で多くの飲食店が苦しむ現在、無料食堂はどうなっているのでしょうか。

 まるかつの金子友則店長(43)に話を聞きました。

延べ430人が無料食堂を利用

Q.無料食堂が5月4日で丸2年になりましたが、利用者は何人になりましたか。そのうち、店長が言っておられた「出世払い」をした人は。また、印象深い出来事はありますか。

金子さん「延べ430人ほどの皆さんに利用していただきました。その利用者の中で、後日、無料食堂分のお代をお支払いいただいた人も数組ありますし、お金を払ってお店で食事してくださった人も数組いらっしゃいます。

印象に残っているのは、長距離トラックの運転手さんが、お金に困って無料食堂を利用された後のことです。後日、その運転手さんとは全く面識のない別の長距離トラックの運転手さんがSNSで経緯を知って、『仲間を助けてくれたお礼に』と、ご家族でお食事に来てくださったんです。『人と人のつながり』を感じました。

『家出してきた』という少年に食事を提供した後、一緒に警察に行ったこともあります。他にも、あまり公の場では話せないようなさまざまな人生のストーリーを見ました。

誤解がないようにお伝えしたいことがあります。ほとんどの利用者がそれぞれに事情を抱え、本当に困って無料食堂を利用されていると私たちが感じているということです。利用される人が、本当にお金がないのかどうかなどと疑うつもりは全くありませんし、疑っても真実を知りようがありません。そもそも、私たちの方から事情を聞くこともしません。

私たちが、とんかつ店として提供した料理を『おいしい』と言ってお召し上がりになっていただくだけで十分です。元気を出すきっかけにしていただけたとしたら、さらに幸せです」

Q.無料食堂を始めたきっかけとして、以前の取材の際、北陸の豪雪で苦しんだ人たちを対象にした割引をしてみて、「他人(ひと)様のために何かしても、きっと損はない」という気持ちになれたことを挙げておられましたが、幼い頃、困窮した生活を経験したことも関係しているとも聞きました。

金子さん「私の子ども時代よりも、もっと貧しい生活を強いられている人が大勢いらっしゃるのが現実だと思います。私の家庭は幸い、食べるものに困ることはありませんでしたので、まだ幸せな方だと思っています。ただし、少なからず、子ども時代のそういう体験があり、こんな私でも『社会的弱者』と呼ばれる人の気持ちが少しは想像できるのかもしれません。

また、他人様のために何かをさせていただいても損することはないのだ、と信じられるようになったきっかけはやはり、『北陸豪雪のツイートへのお礼に』と、わざわざ遠方からご来店いただいた皆さまがおられたおかげです」

Q.無料食堂を始めて2年たちました。「無料食堂を応援したいから食べにきた」という人が増えているそうですね。

金子さん「文字通り日本全国から、お客さまがお越しになります。また、地元の皆さんをはじめとして全国から、リピーターさまもお見えになります。こんなにうれしい気持ちになれることはなかなかないと思います」

Q.無料食堂に対して、否定的な声はなかったのでしょうか。

金子さん「無料食堂を始めたばかりの頃は『偽善だ』『売名だ』というようなご批判も一通り頂きました。現在は、そのような声はほとんどないと思います。ホームページにも、自分なりにできるだけ詳しく説明してきたつもりですが、何より、多くの皆さんがSNSなどで無料食堂について応援メッセージをくださっていることが大きいです。応援が、否定的な声にへこたれることなく継続できた大きな理由だと思います」

Q.お店の外に貼っている「無料食堂」の張り紙を時々、印刷し直しているそうですね。

金子さん「お店の外に貼っていますので、日に当たるとどうしても色が薄くなってしまいます。色が薄くなると古く見えてしまい、利用しようと思ってご来店された人が『もう今はやっていないのではないか?』と思ってしまうかもしれません。そうならないよう、できるだけ濃い文字で『今もやっていますよ』と伝えるために時々、印刷し直して、ラミネート加工をして貼り直しています」

Q.新型コロナウイルスの影響で、一時的に予約持ち帰り専門で営業しているとのことですが、無料食堂は『無料持ち帰り』として続けているのでしょうか。

金子さん「はい。お持ち帰りでご利用いただいています。『今日の分だけではなく、明日の分もよかったら』と多めにお渡しすることもあります。翌日の分もあれば、ほんの一瞬でも安心できるのではないかと思います。スタッフも分かってくれているので、お弁当のご飯を黙って大盛りにしてくれていることもあります」

Q.今後も無料食堂は継続するつもり、ということでよいでしょうか。コロナ禍を乗り越える気構えとともにお聞かせください。

金子さん「おかげさまで継続していけそうです。これもお客さまや業者の皆さまのおかげです。コロナに負けず、日々できることを探しながら、スタッフの力も借りながら、お客さまに喜んでいただける工夫をたくさんして、乗り切っていきたいと思います。感謝を忘れず、一日一日を大切にして頑張りたいです」

 まるかつは5月7日現在、予約制で「持ち帰り専門」の営業となっており、無料食堂も持ち帰りで継続中です。詳しくは店のホームページ。

(オトナンサー編集部)

【画像】子ども向けに作った「無料食堂」の張り紙

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