英語民間試験など見送りに 「大学入試検討会議」の議論はどこに向かうのか
大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

大学入学共通テストの英語民間試験活用と、国語・数学の記述式問題出題という“2つの柱”が見送られたことを受けて、文部科学省の検討会議がハイペースで会合を重ねています。1月15日に初会合を開きましたが、2月中には第4回(28日)まで開催する予定です。議論はどこへ行くのでしょうか。
2021年春に通知する必要性
ハイペースの議論には、訳があります。検討会議は1年程度かけて結論を得ることになっていますが、それがギリギリのスケジュールだからです。
大学入試の見直しについて文科省は、新しい学習指導要領で学ぶ高校生(2022年度に高校入学)が大学を受験する2025年度入試に照準を合わせていますが、大幅な入試改革をする場合、受験生が余裕を持って準備できるようにする「2年前予告ルール」という慣例があります。
2025年度入試が実際に行われるのは、2024年8月(AO入試出願開始)~2025年3月、つまり2024年度です。その2年前というと、ちょうど受験生が入学する2022年度です。
各大学が入試を見直す時間を考えると、さらにその1年前の2021年度中に、国の制度改革が決まっていなければなりません。通例では、文科省が大学入試関連の通知を行うのは毎年5月です。2021年春の通知に間に合わせるためにも、2020年中に議論をまとめるというめどが必要でした。
では、そのハイペースな会合では現在、一体どういう議論になっているのでしょうか。
顔合わせの色彩が濃い初会合の後、2月に入って以降「経緯の検証」を急ピッチで進めています。7日の第2回会合では、12人もの外部弁護士の協力を得てまとめた、計243ページの詳細な報告書も配布されました。ただ、これは過去の各種会議の議事録や報告書などを整理したもので、そこに現れない「意思決定」がどのように行われたのかを問う声も委員から出ました。
同時に、委員からのヒアリングも始まりました。委員には、高校や大学の団体関係者も含まれています。それが一段落した段階で、外部からのヒアリングに移る予定です。
共通テストと個別試験の役割分担
議論は始まったばかりで、まだ先が見える段階ではありません。ただ、会合でたびたび出ているのは「共通テストと個別試験の役割分担」論です。
共通テストの前身である大学入試センター試験は毎年、50万人以上が受験してきました。50万人規模の共通テストを一斉に行うにはおのずと制約があります。そこで、英語4技能(聞く・読む・話す・書く)は大学入試センターで実施するのは無理だとの判断から民間試験を活用することにし、記述式は解答文字数を限った上で採点を民間に委託することにしたのです。
しかし、1年前の段階になっても実施への不安が解消できず、結果的には直前になって見送りと判断されました。
これについて、委員からも「スピーキングを全国立大学に課すには非常にハードルが高い」(国立大学協会入試委員長の岡正朗・山口大学長、2月13日の第3回会合)、「80字くらいで模範解答があるような記述式は本来おかしい」(日本私立中学高等学校連合会会長の吉田晋・富士見丘中学高校長、同)といった意見が挙がっています。
入学定員を上回る受験生を大幅に入学させるとペナルティーが待っている「厳格な定員管理」にも批判が集まりましたが、一方で大学側には、きめ細かな入学者選抜を行う余裕がないという限界があります。だからこそ、共通テストの枠組みに引き続き期待がかかるとともに、各大学の個別試験との役割分担を図らなければならない、という議論になっているわけです。
センター試験の前身である共通第1次学力試験(共通1次)も、2次試験で多様な選抜を用意するというのが前提でした。数十万人規模の受験生が全国一斉に受験するという共通試験に、あまりにも過大な期待を負わせ過ぎたことも問題の背景にあったと言えるでしょう。
(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)
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