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小室哲哉氏は“8万円”提示? 別居中の生活費「婚姻費用」はどう決まるのか

給与や役員報酬から天引きも可能

 今度は、家庭裁判所が公表している「新しい算定方式」(判例タイムズ1111号291頁)という別の計算式を使います。具体的な算定方法は以下の通りですが、夫の年収が1億円、妻が無収入なら、婚姻費用は毎月約166万円が妥当な金額です。裁判所を通した場合、毎月8万円では済まされないでしょう。

1.算定方式における基礎年収(年収の0.4倍)を算出する。

2.大人を100、14歳以下の子どもは55、15歳以上の子どもは90とし、妻(+子)÷夫+妻(+子)の係数を算出する。夫の年収に係数を掛けると「妻子の生活費」になる。

3.妻の生活費×夫の基礎年収÷夫の基礎年収+妻の基礎年収が妥当な婚姻費用の金額。

 とはいえ、相手がいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた海千山千だとしたら、裁判所で決まった婚姻費用の金額だとしても平気で踏み倒そうとするかもしれません。どうしたらよいのでしょうか。例えば、婚姻費用分担の調停で決まった婚姻費用の金額は調停調書という書面に残してくれます。調停調書には強制力があるので、相手の財産を差し押さえることが可能です。

 例えば、会社員の場合、給与を差し押さえるのが一般的です。具体的には、会社が給与を支払う前に会社が直接、妻の口座に未払い分を振り込んでくれます。残った分は相手の口座に振り込まれますが、いわゆる給与天引きの状態を実現することが可能です(民事執行法151条の2)。しかも、一度手続きを踏むと、再度同居するか離婚が成立するまで自動的に天引きされるので非常に便利です。

 会社役員の場合はどうでしょうか。会社から支給されている役員報酬を差し押さえることが可能です。会社員の給与と同じように毎月、天引きすることができるので安心です。実際のところ、年収が1億円を超える場合、節税対策で法人成りしていることが多いです。お金は取引先から会社、会社から個人へ流れますが、会社が個人へ支払うのが役員報酬です。

 今回のケースに限らず、離婚が決定的になっている場合、手間暇をかけて婚姻費用の金額を決めても結局、わずかな期間しか受け取ることができない…コスパが悪いという理由で婚姻費用を請求しないケースが散見されます。

 しかし、必ずしも思惑通り、早々に離婚できるとは限りません。離婚が遅くなればなるほど婚姻費用のありがたみは増します。婚姻費用なしでは別居中、生活費をまかなわなければならず、妻は自分の収入や貯金を「持ち出し」の状態が続きます。本来もらえるはずの婚姻費用をもらえない分だけ損をする計算です。

 途中で収入や貯金が底をついた場合、どうなるでしょうか。夫が相場をはるかに下回る慰謝料や財産分与、解決金を提示してきた場合、それらの条件は馬の鼻面にぶらさがるニンジンと同じです。ニンジン欲しさに否応なく離婚するしかありません。こうした兵糧攻めに屈しないよう、離婚の話が始まる段階で、きちんと婚姻費用を決めておいた方が賢明でしょう。

(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)

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露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)

露木行政書士事務所代表

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。公式ブログ(https://ameblo.jp/yukihiko55/)。

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