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うつ病の54歳ひきこもり息子を抱えた一家…母亡き後、兄弟姉妹に求められる覚悟

ひきこもり当事者の兄弟姉妹は「親亡き後、誰が生活の面倒を見るのか」という課題に直面することがあります。

親亡き後、ひきこもり当事者の面倒は誰が見る?
親亡き後、ひきこもり当事者の面倒は誰が見る?

 ひきこもりの長期化・高齢化が進んでいるためか、最近は高齢の親だけでなく、ひきこもり当事者の兄弟姉妹も同席して相談をするケースが増えています。兄弟姉妹が抱える不安の一つに「親亡き後、(ひきこもり当事者の)生活の面倒を見なければいけないのか」というものがあります。一体どうすればよいのでしょうか。

 長期化・高齢化したひきもりのお子さんは、親と同居していることがほとんどです。しかし、その親もいずれは亡くなってしまいます。当事者に兄弟姉妹がいる場合、「親亡き後の生活の面倒は兄弟姉妹が見ることになるのでは」と考える人も多いと思います。

 ただ、兄弟姉妹からすると「自分たちにも家族や生活があるので、親の代わりとなって生活の面倒を見ることなんてとてもできない」というのが本音でしょう。一方、親としては「何だかんだいっても、最後は兄弟姉妹が何とかしてくれるだろう」と心の底で思っている節があります。

 このように、親子間でギャップが生じていることがよくあります。このギャップを解消しておかないと、親が亡くなった後、兄弟姉妹が何もフォローせず、一人残されたひきこもりのお子さんは外に助けを求めることもないという、最悪のケースになることもありえます。それを防ぐために、親が元気なうちに「兄弟姉妹に頼めること/頼めないこと」をはっきりさせ、親子で共有する必要があるでしょう。

80歳の母と、ひきこもりの54歳の息子

 今回の相談者の家族構成は以下の通りです。

・母(80)
・父(すでに死亡)
・次男(54) ※ひきこもり当事者
・長男(55)と長女(52)にはそれぞれ家庭があり、独立別居
・現在は母と次男の2人暮らし

 母親は今年80歳になり、体もだんだん弱くなってきました。「自分が亡くなった後、次男の生活はどうなってしまうのか」と不安に思った母親は、別居している長男と長女それぞれに「私が亡くなった後、次男はお願いします」と電話で伝えたそうです。

「急にそんなことを言われても…」

 長男と長女は明確な返事をすることができず、困ってしまいました。そこで「一度家族で集まって話し合いをしよう」ということになりました。しかし、家族だけで話し合いをすると感情的になってしまい、何も解決できない恐れがあるので、冷静になるために第三者(筆者)を交えて話すことにしたそうです。

 当日は、母親、長男とその妻、長女がいらっしゃいました。4人とも不安な気持ちを隠すことができないようで、ごあいさつをした時の笑顔はどこかぎこちないものでした。椅子に座り一息ついたところで、まずは母親から次男の状況を伺うことにしました。

 次男はうつ病を患っており、月に1回通院をしています。症状は比較的軽いとのことですが、それでも仕事をすることは難しく、家の中で静かに過ごしています。調子が良いときは母親と一緒に買い物に出かけることもありますが、家の中のことは全て高齢の母親がやっています。具体的には、食事の準備や片付け、掃除、洗濯、ごみ出し、次男の服薬管理、金銭管理、生活上必要な手続きなどです。

「母親が亡くなった後、次男が1人で日常生活を送るのは難しいと思う。長男と長女にフォローをお願いしたい」というのが母親の要望のようです。

 それに対し、長男が筆者の方を向いてはっきりと告げてきました。「妻とも話しましたが、母が亡くなった後に生活の支援をすることは難しいです。何かを期待されるのも困りますし、押し付けられるのも勘弁してほしいです」。長男の妻も無言で控えめにうなずいています。

 続いて、長女も自分の考えを述べました。「できることがあれば、協力したい気持ちはあります。しかし、母の代わりとなって大部分の面倒を見るとなると、負担が大きく、とてもできそうにありません…」

 母親は悲しそうな表情で、長男と長女の顔を代わる代わる見つめていました。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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