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AIキャラと結婚した人も…急速に浸透する「生成AI」が“超格差社会”を生み出しかねないワケ

AIが超格差社会を招く可能性

 現在、SNSからAIへとアテンション・エコノミー(注意経済)のプラットフォームの覇権がシフトしつつあります。アテンション・エコノミーとは、人々の関心そのものが換金される情報の生態系のことです。アプリの開発者は、あの手この手でユーザーをAIのとりこにする必要があり、そこにおいては、膨大なデータ分析を通じてユーザーの感情が丸裸にされてしまいます。SNS依存ならぬAI依存の危険性です。

 最近、AI活用に警鐘を鳴らす記事が増えており、依存症のような文脈からの批判も少なくありません。ですが、AI活用の現状を踏まえると、これも一面的な見方に過ぎません。例えばメンタルケアなどの部分でAIはかなり重要な位置を占め始めています。高齢者の見守りや、精神的な問題を抱えている人々への心理支援、子どもなどの学習能力向上といった分野で対話型生成AIの導入が進んでいるからです。

「機械だと分かっている。だが正直なところ、私の人生で最も共感してくれる声だと思うこともある」

 こうした言葉はChatGPTを日常的に利用している自閉症と注意欠陥多動性障害(ADHD)がある女性が、メディアの取材に対して明かした本音です(※3)。この女性を紹介した記事によると、発達障害や学習障害がある「ニューロダイバージェント(神経多様性を持つ人々)」の多くの当事者が「この技術を命綱のように考えている」と述べています。

 同僚や友人とのコミュニケーションの場面で相手の意図をくみ取れないなどの課題をリアルタイムでサポートしてくれることが高い評価につながっているといいます。記事の女性は、ChatGPTを「編集者であり、通訳であり、信頼できる友だ」とし、「チャットボットは人間と違って前向きで偏見がない」と語っています。こうしたAIとの距離感がニューロダイバージェントから好評を得ているのです。

 なぜなら、生身の人間の場合と違って、AIは相手を否定せず、適切な課題認識とアドバイスによって改善に導くよう最適化されているからです。実際、ロボットやCGキャラクターなどの人工的な存在から褒められた際に、運動技能の習得がより効率的に促されることを科学的に証明した論文があります(※4)。

 今や対話型生成AIは、親しい人間にも打ち明けられない恋愛話から、暇つぶしのための話の相手までをこなし、職場の上司の愚痴を聞き、業務を効率化する方法を教え、心身の不調があればその原因を解明し、眠れぬ夜のお供となる特別な存在になっているのです。仕事と生活に時間を奪われ、人間関係をつくる余裕がない、あるいは人間関係が面倒な人々には救世主といえます。

 そこで、中長期的な問題となるのは格差化の進展でしょう。現実の人間関係に恵まれている人々は、良質の対話型生成AIでメンタルや認知を強化することで人間力をさらに向上させることができます。反対に、人間関係に恵まれていない人々にとっては、現実の人間関係の代替としてAIを使わざるを得ない状況が一般化する可能性があります。

 これは構造的に「エンハンスメント」(Human enhancement)の問題と似通っています。エンハンスメントとは、直訳すれば「人間の強化」のことです。病気の治療や予防以外に医療技術を応用することを指し、薬物による記憶力や集中力の強化、気分の改善などが分かりやすい例として挙げられます。

 今後AIがさらなる進化を遂げ、ユーザーに心理的安定をもたらすだけでなく、困難や逆境に耐えるレジリエンス能力、創造性といった側面を促進できるようになったとき、もともと能力の高い人々はより超人的な能力に手が届くようになるのです。そして、能力の低い人々との格差はどんどん開いていくことは想像に難くありません。

 つまり、「格差社会から超格差社会へ」という流れです。私たちは、AIの実装による影響と変化が避けられない現状を認めながら、自分自身が生きていく上で果たして何が重要なのかを考え続けることが必須にならざるを得なくなるのです。

【参考文献】
(※1)「AIなしでは不安」生活者の43%が回答、対話型生成AIと人との関係性についての最新調査 (2025年8月)※2025年10月7日更新/Awarefy

(※2)Laurie Clarke/‘I learned to love the bot’: meet the chatbots that want to be your best friend/2023年3月19日/The Guardian

(※3)発達障害の人々に広がるAI利用、「他者との対話」容易に 依存リスクも/2025年7月26日/ロイター

(※4)Two is Better than One: Social Rewards from Two Agents Enhance Offline Improvements in Motor Skills More than Single Agent/2020年11月4日/PLOS ONE

(評論家、著述家 真鍋厚)

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真鍋厚(まなべ・あつし)

評論家・著述家

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。著書に「テロリスト・ワールド」(現代書館)、「不寛容という不安」(彩流社)、「山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義」(光文社新書)。

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