母子家庭の子どもにお菓子 自身の体験もとに…奈良の僧による支援活動が5年で大きな輪へ
「つながり」を支える存在に
おてらおやつクラブの協力寺院が箱詰めするのは、モノだけではありません。同封する手紙には、お寺からの「ひと言」を書く欄があります。「最近だんだんと暑くなってきましたが、元気に過ごされていますか」「この『おすそわけ』が皆さんのからだの、そして『心の栄養』になるとうれしいです」。そんなメッセージが、子どもたちと母親に届くのです。そこには、自分もかつて当事者だった松島さんの思いがあります。
「ただ食べ物が届くだけではない。いろんな人の思いがこもっている。子どもたちとお母さんのことを思う気持ちを伝えてもらっています。母子家庭の悩みは、単純に『お金がない』ことだけではありません。人とのつながりを持ちにくい。悩みを相談できない、ということがあります。社会には強い『自己責任論』があります。一人親家庭の増加の背景には、離婚件数の増加、未婚のまま子育てをする女性の増加があり、『自分勝手なことをして、勝手に苦しんでいる。自己責任だろう』と言われてしまうお母さんが多いんです」
だからこそ、おてらおやつクラブからの手紙には、荷物受け取りの連絡ができるよう連絡先を記しています。それは、到着確認だけでなく、困りごとや相談ごとを書くきっかけ作りのためでもあります。
各地の母親からは、いろいろな声が返ってきます。「離婚してからクリスマスのケーキやプレゼントがなく、少し大きくなってきた子どもたちは、私に気を使っておねだりすることもなくなり、すごくかわいそうな思いをさせています」「自分たちより大変な人はいっぱいいるし、私たちは自己責任だしと思って、自分の家の状況を言えませんでした」。おてらおやつクラブが、これまで言えなかった悩みを打ち明ける場になっているのです。
もちろん、感謝の声も多く届きます。「たくさんのお菓子に喜んでいる息子を見てうれしく思っています。たくさんの幸せも一緒に届けていただいた感じです」「支援を頂くと、自分は一人ではないんだな、と実感できます」「いつも優しいお気遣いのひと言を添えていただき、ありがとうございます」
2018年10月、おてらおやつクラブは「従来、寺院が地域社会で行ってきた営みを、現代的な仕組みとしてデザインし直した優れた取り組み」として、「グッドデザイン大賞」を受賞しました。優れたデザインを評価するこの賞を、形のない「取り組み」が受賞することは珍しく、注目を集めましたが、松島さんが受賞を喜んだポイントは違いました。
「賞を頂いたことは、大きなきっかけになると思います。どうしてこんな活動が必要なのか、その背景に貧困問題があるということを、多くの人たちに知ってもらうきっかけになればと考えています」
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