母子家庭の子どもにお菓子 自身の体験もとに…奈良の僧による支援活動が5年で大きな輪へ
「おなかいっぱい食べさせてあげたかった」がきっかけに
2013年5月、大阪市内のマンションで、母親と3歳の息子が餓死状態で発見されたというニュースが全国に流れました。母子家庭の2人が生活していた部屋に食べ物はなく、電気もガスも止められ、息子の遺体には毛布。部屋には、母親がわが子に宛てたとみられる1枚のメモが残っていました。
「『最後に、おなかいっぱい食べさせてあげたかった。ごめんね』という手書きのメモでした。この飽食の時代に、どうして餓死事件が起きてしまったのか。私もちょうど、父親になってすぐの頃。大阪で生活していたこともある。そして、母子家庭で育った当事者でもある。人ごととは思えませんでした」
この事件をきっかけに「おてらおやつクラブ」という活動を始めることになります。
檀家や地域住民が、お寺にお供えとして持参する果物や野菜、菓子は、ご本尊に供えた後、寺で修業する僧侶やその家族が、仏様の「おさがり」として、おやつや食事にします。来客への茶菓子などにも使いますが、夏場を中心に、賞味期限が切れてしまうことがある、という課題がありました。その一方で、一日一食の食事に困る子どもたちが増えているという現実もありました。
「お寺にはあるけれども、社会にはない。それぞれが課題だと感じていることをつなげよう、と思いました。『おてらおやつクラブ』は、お供えをおさがりとして、おすそ分けする、お寺の社会福祉活動です」
自身が当事者であり、毎日働いても生活が苦しい人が多い母子家庭を中心に支援することにしました。2014年1月、全国のお寺や、母子家庭を支援する団体に声をかけ、活動を本格的に始めました。
協力する寺院は、お供えを本尊に供え、お勤めした後、箱詰めをします。「おやつ」という名前からイメージする菓子だけではなく、米や野菜、文房具やタオルを詰めることもあります。それを、各地の社会福祉協議会や子ども食堂といった支援団体に送り、各団体が母子家庭に届ける、という仕組みです。それぞれのお寺と、その近くの支援団体とをつなげる役割は、安養寺内に設けた事務局が担います。
自身も3人の子どもを持つ松島さん。全国の子どもたちが「おやつ」を待っている思いについて、幼いわが子が念仏を唱える様子に触れ、こう語ります。
「朝昼晩、息子と一緒にお経、お作法をして『頂きます』をします。幼い息子のお経、念仏にはまだ、信仰の気持ちなんてありません。『早くご飯が食べたい、お菓子が食べたい』という一心です。そんな息子の姿を見ながら思います。子どもたちにとって、食事の時間、おやつの時間が、どれだけ待ち遠しい時間なのか、と」
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