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老いに「抗う」のではなく「適応する」…デンマークの高齢者に学ぶ「幸福な高齢期」を迎えるためのヒント

老いを受け入れて備えるか、老いに抗うか

 デンマークでは、早め(若いうち)の住み替えが一般化しています。制度などがいろいろと違うので、簡単に日本と比べるわけにはいきませんが、基本的には、いつまでも現役時代と同じように、「できることは自分でやって、自立して楽しく暮らしたい」という意識が高いからだと思います。だから、身体的に衰えても仕事をしなくなっても、自立して快適に過ごせる環境を前向きに検討し、積極的に住み替えようとするのでしょう。

 デンマーク在住の澤渡夏代ブラントさんが書いた「デンマークの高齢者が世界一幸せなわけ」(2009年、大月書店)には、デンマーク人は「福祉サービスの恩恵に依存するのではなく、“できる限り自分の生活は自分で”という自立の精神が高い」と記述されていますが、そうした精神が、老いを受け入れた上でしっかりと高齢期に向かって対策をする姿勢に表れているようにも感じます。

 日本は、これとはかなり違う印象です。「自立して楽しく暮らしたい」という思いはデンマークと同じであっても、日本の場合はそのために若々しくいようと、老いに抗(あらが)おうとします。デンマークのように、避けられない老いを受け入れ、環境や住まいを見直すことも含めて、積極的に備えや対策を講じるという人は少数派です。実際、元気な状態で高齢者住宅(≠介護施設)に住み替えた方々に伺うと、「友人たちから驚かれる」「不思議がられる」とおっしゃいます。それくらい一般には、「元気なうちに衰えに備える」という発想がないということだと思います。

 日本は「アンチ・エイジング」(老いに抗う)、デンマークは「アジャスト・エイジング」(老いに適応する)といったところでしょうか。老いてからの人生が長いことは既に皆が分かっているわけですし、抗ってもいつか限界が来ます。であれば、抗うばかりでなく、「早めに受け入れて備える」という姿勢を学ぶべきだろうと思います。デンマークの高齢者の高い幸福感は、福祉の充実というよりも、それぞれが上手に、かつ若いうちから、高齢期にアジャストしていっているからなのかもしれません。

 中でも、ヨーロッパに「福祉は住居に始まり、住居に終わる」という言葉がある通り、住宅はとても重要なポイント。高齢期にふさわしい住まいを確保することが、アジャスト・エイジングへの第一歩となります。

 日本では多くの人が、高齢期の住まいについて「自分はまだまだ若いから」「時期尚早」などとおっしゃいますが、それは介護施設の話であって、住宅については早めに考えた方がいいに決まっています。若い方が環境変化に適応する能力は高いでしょうし、転居や断捨離にかかるパワーは若い方が耐えられます。デンマークの人たちが早めに住み替えるのは、この点をよく分かっているからかもしれません。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)、「老い上手」(PHP出版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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