【子どものチック症】目をパチパチ、首を振る “脳の異常”が原因? 精神科医が治療法と親への理解を解説
子どもが突然、目をパチパチさせたり、首を振ったりするなどの動作を繰り返すことがあります。こうした症状は「チック症」と呼ばれていますが、なぜ発症するのでしょうか。精神科医が解説します。
子どもが突然、目をパチパチさせたり、首を振ったりするなどの動作を繰り返すことがあります。こうした症状は「チック症」と呼ばれていますが、なぜ発症するのでしょうか。発症の原因や治療法などについて、「出雲いいじまクリニック」(島根県出雲市)院長で、精神科医・総合診療医の飯島慶郎さんが、自身の診療経験を基に解説します。
チック症は神経発達症の一種
診療室で、突然、目をパチパチさせたり、首を振ったりする子どもたちを見掛けることがあります。「単なるクセでしょうか?」「心の問題なのでは?」と心配そうに尋ねる保護者の声をよく耳にします。これらの症状は、多くの場合、「チック症」と呼ばれる神経発達症の一種です。
20年前、当時8歳の男の子を診察したときのことを今でも鮮明に覚えています。頻繁に目をパチパチさせ、時々首を振る症状がありました。母親は心配そうに「これは心の問題でしょうか?」と尋ねてきました。この経験が、私のチック症との初めての出合いでした。
チック症とは、突然、意図せずに起きてしまう素早い体の動きや音声のことを指します。私の外来で頻繁に見られるチックとして、最も一般的な「目をパチパチさせる」のほか、「首を振る」「肩をすくめる」などの運動チックのほか、「せき払いをする」「鼻をすする」「奇声や特定の言葉を繰り返す」という音声チックがあります。
多くの場合、目のパチパチから始まり、徐々に他の部位に広がっていくことがありますが、チックの現れ方には大きな個人差があることを強調しておきたいと思います。
「脳の機能不全」が原因
「なぜうちの子がチック症になったのでしょうか?」
これは、親御さんからよく聞かれる質問です。この疑問に答えるには、チック症の原因について理解を深める必要があります。
過去には、精神分析的、つまり心理学的に捉えられた時代もありましたが、最新の研究と臨床経験から、チック症は主に脳の機能不全によるものだと考えられています。具体的には、次の要因が関係していると考えられています。
(1)遺伝的要因
チック症には強い遺伝的傾向があります。私の患者さんの中にも、親や兄弟にもチックがある人が少なくありません。
(2)脳の特定部位の異常
特に「大脳基底核」と呼ばれる部分と、それに関連する神経回路の機能異常が指摘されています。最新の脳画像研究でも、この部分の異常が確認されています。
(3)神経伝達物質のアンバランス
特に「ドパミン」という物質の過剰が関係していると考えられています。これは、後述するチックの薬物療法の作用機序とも一致します。
ここで強調したいのは、チックが「心の問題」や「親の育て方」が原因ではないということです。チックは脳の機能不全による神経発達症の一つであり、心因性のものではありません。
ただし、ストレスや環境要因がチックを一時的に悪化させることはあります。例えば、学校の行事前にチックが増えるといった経験をする子どもは少なくありません。しかし、これらはチックの根本的な原因ではなく、引き金や増悪因子と考えるべきです。
チック症の経過には個人差
チック症の原因を理解した上で、次に重要なのはその経過を知ることです。チック症の子どもたちを診察してきて、その経過には個人差が大きいことを実感しています。しかし、一般的には次のような傾向があります:
・発症年齢:多くは3〜10歳ごろに始まる。
・性差:男の子の方が女の子より2〜3倍多い。
・症状の変動:数週間から数カ月の周期で良くなったり悪くなったりする。
・長期的な経過:多くの場合、10代後半までには症状が落ち着いてくる。
このように、チック症は例外を除いた多くの場合、年齢とともに改善していく傾向にあります。ただし、その過程で本人や家族が困難を感じることも少なくありません。そのため、適切な理解と支援が重要になってきます。
そして、実際にチックが今後悪化していくのか、治癒に向かっていくのかは、医師にも予測不可能だという現実を理解していただくとよいでしょう。医師がチックについて、「様子を見ましょう」と言ったり、明確なことを言ってくれたりしないのにはこうした事情があるのです。ですから、親御さんや子どもさん自身がチックについて理解を深めることが大切なのです。
チック症の治療前は理解することが不可欠
チック症の原因と経過を理解したところで、次に重要になるのが適切な治療アプローチです。「先生、うちの子のチックを早く治したいのですが…」という言葉を聞くたびに、私は「理解する」ことの大切さを説明します。
チック症の治療は、症状の程度や持続期間、子どもの困り具合によって個別に考えます。基本的なアプローチは次の通りです。
(1)理解と受容
まず大切なのは、チックについて正しく理解し、受け入れることです。チックは脳の機能不全によるものであり、本人の意思で完全にコントロールすることが難しいことを理解しましょう。つまり、「指導」しても治るものではありません。
(2)環境調整
ストレスを減らし、リラックスできる環境を整えます。ただし、虐待の存在などの極端な状況を除けば、チックがあるからといって過度に保護的になる必要はありません。通常の生活を送りながら、必要に応じて子どもにサポートを提供することが大切です。
(3)行動療法
最近では、包括的行動的介入療法(CBIT)という方法の有効性が確認されています。これには、チックと反対の動きをする「習慣逆転法」などが含まれます。
(4)薬物療法
症状が強く、日常生活に著しい支障がある場合に検討します。特に、1年以上症状が続き、生活に支障がある場合は、薬物療法を検討する良いタイミングかもしれません。
私の外来では、まず(1)と(2)から始めます。(3)と(4)は、症状の程度や持続期間、本人・家族の希望に応じて検討します。
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