「帰宅恐怖症」の夫たち マイルール妻にうつ病にされた30歳会社員・妻の嫉妬に悩む40歳経営者
「帰宅恐怖症」の男性が増えているといいます。その実態や予防法について、夫婦問題カウンセラーが解説します。
現代の夫婦が抱えるリアルな悩みについて、夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんが解説します。今回のテーマは「帰宅恐怖症」の夫です。
「帰宅恐怖症」とは?
「帰宅恐怖症」の男性が増えています。私は年間200人くらいの男性から夫婦問題に関する相談を受けますが、5人に2人は帰宅恐怖症とその予備軍です。
帰宅恐怖症とは、妻の態度や暴言に恐怖を感じ、妻のいる自宅へ帰ることを苦痛に感じたり、帰ることができなくなってしまったりする症状のことです。妻が起きている時間帯に帰りたくないため、進んで残業をするようになったり、居酒屋で飲んでから帰宅したりします。
早く家に帰って体を休めたいのに、いざ仕事を終えて帰宅しようとすると、動悸(どうき)がしたり、不安感に襲われたりするという人も少なくありません。
「しっかりした彼女」に惚れて結婚
「家に帰るのがつらいです。もうどうしたらいいか分かりません」
初回カウンセリングにやって来た会社員の小林隆さん(仮名・30歳)は、疲れ切った顔で言いました。その憔悴(しょうすい)ぶりは、これまでたくさんの「結婚に疲れた人」と向き合ってきた私も、心配になるほどでした。
隆さんは結婚2年目。奥様の美希さん(仮名・32歳)とは友人の紹介で知り合い、交際に発展したそうです。
「付き合って半年だからこのお店に行きましょう」「メールは10分以内に返信してほしい」「エアコンの温度は28度より下げないで」
お付き合いを続ける中で、「ちょっと口うるさい女性だな」と思うこともあったといいます。それでも、「しっかりしていて助かる」「うるさいくらいの姉さん女房の方が、優柔不断なところがある自分には合っている」と感じた隆さんは、「30歳までには結婚したい」と話していた美希さんにプロポーズ。交際1年半で結婚に至ったのです。
異変は同居を始めてすぐに現れました。
「歯磨きは3分」「洗濯物はタオルから干す」「調味料のストックは1つまで」
美希さんは、とにかく「マイルールが多い」女性だったのです。小林さんがそのルールから少しでもずれたことをすると、容赦ありません。
「この前も言ったでしょ!」「何度言ったら分かってくれるの!」
家にいる間中、妻に怒られ続ける日々が始まりました。
「家に帰ろうとすると具合が悪くなるんです。車の中でゲームをして時間を潰したり、妻が寝るまで漫画喫茶で過ごしたりしています」
こうした夫の変化を感じ取った美希さんは、余計神経質になってしまったのでしょう。
「シャンプーボトルの置き場が1センチずれている」「洗面所に髪の毛が1本落ちていた」「脱いだスリッパがそろっていない」
気になったこと、目についたことをひたすら隆さんに注意し続け、ヒートアップすると「何で分かってくれないの!」と怒鳴り散らすようになってしまったのです。
「まだ2年目なのでやり直したいが、限界かもしれない」
3回目のカウンセリングの際、隆さんは言いました。当初は「何としても離婚は避けたい」というご希望だったため、私も何とかお二人の関係が改善するよう尽力していましたが、正直なところ、隆さんのお話を聞けば聞くほど、このケースの場合、夫婦関係の修復や正常化は難しいと感じるようになっていました。
というのも、どうやら美希さんのご両親も「物の置き場が1センチでもずれていると気になるタイプ」だというのです。そのような家庭で育った美希さんが、「自分に非がある」と理解し、歩み寄るのは難しいでしょう。美希さん自身には、「夫をいじめている」という意識は全くないからです。
両親に大事に育てられ、成人してからも両親と距離の近い女性の中には、結婚相手と一緒に“新しい家庭を築く”という意識の希薄な人が少なくありません。自分の育った家庭をモデルケースとして捉え、「幸せになるためには、自分の両親のような家庭を築かなければならない」と思い込んでいるのです。
「正しいことをできない夫が悪いから、教え込まないといけない」と考える美希さんと、「細かいルールを押し付ける妻が異常だから逃げたい」と感じる隆さんが一緒に暮らし続けるのは、お互いにとって大きな負担となります。
とうとう、隆さんはうつになってしまい、心療内科にかかるようになりました。医師からも、妻がストレスの原因と指摘された隆さんは、美希さんとの離婚を決意。小林夫妻の結婚生活は3年で幕を閉じることになったのです。
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