便秘の8割は“尻”が原因 肛門科医が解説する仕組みとは?
便秘の原因について、肛門科医の著書を基に読み解きます。
「便秘外来を受診したけれど治らない」「腸活しているのに便秘が治らない」。こうした症状に悩む人たちは、「便秘=大腸が原因」と思い込んでいる傾向にあるようですが、実は便秘の原因は、それだけではありません。
今回は、肛門科医の佐々木みのりさんの著書、「便秘の8割はおしりで事件が起きている!」(日東書院本社)を基に、便秘の実態について紹介します。
「出口の便秘」に要注意
便秘の原因を知るためには、まず排便の仕組みを理解しなければいけません。佐々木さんは著書で次のように解説しています。
「私たちが口から取り入れた食べ物は、筋肉の収縮と弛緩(しかん)による『ぜん動運動』によって胃に運ばれて消化されます。その後、小腸で栄養が吸収され、大腸でもミネラルや水分が吸収されて、ゆっくりと便が形成されます。通常、便は横行結腸と下行結腸にとどまり、大腸の末端にある直腸と肛門には便はありません」(佐々木さん)
「腸が刺激を受けると、『胃結腸反射』による大ぜん動運動が起き、便が直腸に移動します。1日1回、朝食後に最も強く現れます。これにより直腸に便が下りてきたことを大脳が確認すると便意が起こります。トイレで排便の用意が調い、いきむことで腹圧が高まり、同時に排便や排尿をコントロールしている肛門括約筋が緩んで便を押し出します」(同)
排便時の腹圧で、一時的に肛門に負担がかかるものの、便が下りてくるたびに完全に出し切れば、肛門は元に戻り、再び空っぽになるということです。
佐々木さんは、便秘には、便をつくる場所で起きる「おなか(大腸)の便秘」と、便を出す場所で起きる「出口(直腸・肛門)の便秘」の2種類があると説明。排便時に出口に便が残らない状態が本来あるべき姿であり、毎日排便をしていても、便が出口に残っている場合は便秘だと解説しています。
「(便秘は)何日も便が出ない人がなる病気と思っている人が多いと思います。ですが、痔の患者さんの実に9割が毎日排便のある人です。しかし、診察すると出口に便がしっかり残っています。最近は特に、便秘で困っているという患者さんが大勢訪れます。ほとんどの人が腸活を頑張り、全国あちこちの便秘外来で治療したけれど改善しなく当院にたどり着きます」(同)
患者に共通する排便の悩みとは?
佐々木さんは、患者の訴えはほぼ共通していると言います。どのようなことなのでしょうか。
「医療機関の便秘外来を受診したけれど、どこも出される薬は似たような下剤や整腸剤、漢方薬で、服用したら便は出るけれど残便感があって不快。おなかの張りは変わらない。出始めの便が硬いので肛門がときどき切れて痛い。結局便秘も治らないということです。そういった便秘難民の人を診察すると、痔の人と同じような傾向があります」(佐々木さん)
「これまで診察した便秘患者の8割以上が出口の便秘でした。『便秘の8割は出口で事件が起きている』と言えます。ところがちまたの便秘情報のほとんどが腸に関することばかりです。『便秘には○○が効く』の○○は食物繊維であったり、乳酸菌、野菜や果物、おなかのマッサージや運動などであったり、大腸に働きかけるものです」(同)
食物繊維や乳酸菌などはこれからつくられる便には効くものの、すでにでき上がって直腸や肛門に下りている便のほか、直腸や肛門に残り、水分が吸収されて硬くなってしまった便には効かないということです。
佐々木さんは、「排便時は便をすべて出し切り、直腸も肛門も空っぽになっているかどうか」が大切だとアドバイスします。2~3日に1回の排便でも、直腸、肛門が空っぽになれば、出口の便秘ではないとしています。
直腸や肛門に便が大量に残っていると、人によっては何度も便意を感じることがあるそうです。その場合、1日に2回以上排便をするため、本人は「便秘」とは思っておらず、痔などの病気が進行して初めて異常に気付くというパターンが多いと明かしています。
本書は女性肛門科医が解説する「出口の便秘」の初の指南書です。便秘で悩む人の8割以上が該当するという出口の便秘の実態と解決方法が分かります。この機会に、お“尻”の真実について理解しておきましょう。
(コラムニスト、著述家 尾藤克之)
コメント