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知っている? ご飯に「梅干し」をのせるだけでは、食品の傷みを防げない!

食品が傷むのを防ぐため、昔からお弁当のご飯に「梅干し」をのせることがありますが、のせただけでは効果がないようです。どうすれば、食品の傷みを防げるのでしょうか。

「梅干し」の殺菌・防腐効果とは?
「梅干し」の殺菌・防腐効果とは?

 お弁当に入れた食品の傷みを防ぐため、昔からお弁当に梅干しを入れる習慣があります。しかし、ネット上には「ご飯の上に梅干しをのせるだけでは、殺菌・防腐効果は限られる」「今の梅干しは、昔の梅干しほど効果はない」という声もあります。梅干しの殺菌・防腐効果とは、どの程度のものなのでしょうか。管理栄養士の岸百合恵さんに聞きました。

傷みにくいのは梅干し“そのもの”

Q.梅干しは「食品が傷むのを防ぐ効果がある」といわれていますが、事実でしょうか。

岸さん「よく誤解されているのですが、梅干しを1粒お弁当に入れると、周囲の食品が傷みにくくなるというわけではありません。周囲の食品が傷むことを梅干しが防ぐわけではなく、『梅干しそのものが傷みにくい』というのが事実です。

梅干しには、殺菌効果のある有機酸(クエン酸やリンゴ酸)などが含まれ、特に塩分濃度20%以上の梅干しは、常温に置いていても傷まないほどの防腐効果があります。これらの殺菌作用は基本的にはこの成分が存在する場所のみに限られるため、梅干しは『お弁当に入れても傷みにくい食品』ということと、食べることで唾液や胃酸の分泌が促され、体内での殺菌効果が期待できる、と考えておくとよいでしょう」

Q.では、ご飯の上に梅干しをのせるだけの、いわゆる「日の丸弁当」の殺菌・防腐効果は。

岸さん「雑菌の繁殖は、水分と20~40度の菌が好む温度に関連するので、先述したように、梅干しの存在だけでお弁当の傷みを防げるとはいえません。

例えば、ご飯の上にシラスをかけたらシラスの雑菌が増殖するリスクが高いですが、梅干し自体は雑菌のリスクが少ない食品なので、梅干し自体は傷みにくいとはいえます。また、梅干し以外の場所への殺菌効果が発揮されるとしたら、梅干しが触れている部分に限られます」

Q.梅干しを使って、弁当の傷みを防ぐ方法はないのでしょうか。

岸さん「塩気が濃い、昔ながらの梅干しを使うことを前提にお話しします。梅を漬け込んだ汁や赤シソを刻んでご飯全体に混ぜ込むなど、酢飯のようにすれば、有機酸などが触れる範囲が大きいため、ご飯はかなり傷みにくくなります」

Q.多くの市販の梅干しには、昔の梅干しほどの殺菌・防腐効果がないという声もあります。本当ですか。

岸さん「本当です。最近は健康志向の高まりで、減塩されたものや酸味を極力抑えて甘く仕上げたものなど、さまざまな梅干しが市販されています。そのため、梅干しそのものとしても、昔に比べると傷みやすくなっているようで、昔ながらの、塩気が濃い梅干しを探す方が難しいです。防腐によいのは、高い塩分と酸を含む、昔ながらの保存性のよい梅干しです」

Q.梅味のふりかけをご飯の上にかければ、満遍なく広げることができます。殺菌・防腐効果はありますか。

岸さん「梅味のふりかけであっても、逆に傷みやすくなります。本来は、ご飯の上に何ものせない方が傷みにくいのです。ふりかけの中に含まれる、のりやでんぷん質などが水分を吸うと、傷みやすい食品になる恐れがあります。ちなみに『のり弁』も、夏場は傷みやすいので注意しましょう」

Q.これからの時期、職場や学校でできる、弁当の傷みを防ぐための方法を教えてください。

岸さん「細菌が増殖するには、『栄養・水分・温度』の3つの条件が必要なので、その条件がそろわないように、『清潔な手で、清潔な食材や容器を使う』『水分を少なくする』『必ず中までしっかりと火を通す』『適切な温度管理』を行いましょう。

避けてほしいのは、作ってから2日目のおかずを入れることや、雑菌が好む20~40度の温度の空間に食品を長時間置くことです。腐敗菌は水分によって増殖しやすくなるので、朝しっかり加熱した食品を、粗熱を取って冷ましてから詰めることも大切です。

水分を傷みにくくするのが塩、糖、酸なので、おかずは味を濃いめに作り、酢を活用したり、水分が飛ぶように煮詰めたりして、かつお節やすりゴマなどで水分を吸わせる対策をするとよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

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岸百合恵(きし・ゆりえ)

プロボクサー、管理栄養士、日本糖尿病療養指導士

病院食の管理・調理業務や企業での特定保健指導を経て、生活習慣病診療を専門とするクリニックにおいて5年間、栄養指導を実施。アスリートとしても夢を追い掛け、2017年に日本ボクシングコミッション(JBC)のプロテストに挑戦し、一発合格。「闘う管理栄養士」として、チャンピオンを目指して日々トレーニングに励みながら、ボディーメークや健康管理の指導を行う。現在は、スポーツ・睡眠歯科分野の診療を行う歯科医院で、アスリートへの食事指導や、一般患者へのダイエット、フレイル・サルコペニア予防の指導を行う他、内科クリニックで生活習慣病患者に対する食事指導を行っている。

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