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「自閉症」の息子と7年…療育の帰り道、母親が気付いたわが子の“成長”

他人に無関心だった息子に変化が

 これは、まだ息子が自閉症の診断を受ける前の話ですが、かかりつけの小児科で、「この子は他人に対する興味が極端に薄い」と言われたことがありました。当時はそれほど発達の遅れも自閉症の特徴も目立っておらず、筆者にはその意味がよく分かりませんでしたが、その後何となく分かってきたような気がします。

 恐らくなのですが、そもそも彼の世界には「自分」しかいなくて、「他人」は演劇に例えると、舞台の背景にある木や草、石と同じような存在なのかもしれないと思ったのです。

 息子は親である筆者に対しても、他の子どもほど強い執着や特別感を持っていないように感じました。だからこそ、息子は赤ちゃんのときも、親の姿が見えなくなったからといって泣くこともなく、それほど頻繁に抱っこも求めない、「手がかからない赤ちゃん」でした。

 その傾向は、息子が今より幼いときはもっと顕著だった気がしますが、療育を進め、幼稚園などで集団活動をしていくことで、ずいぶん変化していったと思います。2歳ごろの息子は、商業施設のキッズスペースや児童館などに行っても、他の子どもに興味を示すことはあまりありませんでした。しかし、療育や幼稚園での生活の中で、徐々に他人への興味が育ってきたように思います。

 療育の帰り道、いつも脇目も振らずにまっすぐ帰る息子が、何度も後ろを振り返りながら歩いていることがありました。不思議に思って筆者も振り返ると、かなり遠くに、息子と同じ療育に通う子が歩いているのが見えました。そのときは、ようやく息子の世界に「自分」以外の「他人」が登場するようになったのだと知って、とてもうれしくなったのを覚えています。

 息子のような自閉症のお子さんには、当事者の親はもちろんですが、その周りの人も、どう接したらいいか戸惑うことが多いかもしれません。そんなとき、この記事の内容を思い出していただけたら、とてもうれしく思います。

 そして、自閉症という大きなくくりでは説明しきれない、その人それぞれの姿を見つめていただけたらいいなと思います。

(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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