IKEAとサンリオの炎上から読み解く ネット上での「安易なバッシング」の問題点とは?
炎上の「本質」見抜く力を
もちろん、企業側にも問題はあります。ジェンダーについての一般認識とのズレがある場合が少なくないからです。もっと言えば、広告や商品の制作段階において、内部で表現を問題視する意見があるにもかかわらず、それらの声が制作側にまったく聞き入れられない例も珍しくありません。これは進んで火種をつくっているともいえます。
また、炎上対策の面では、コンテンツ自体にさほど問題がない場合でも、ひとたび炎上すると安易に撤回・謝罪などをしてしまうまずさもあります。コンテンツの内容以前に、文脈を無視して一部だけを誇張される可能性や、誤解を招きかねない表現に対する批判の可能性などを想定した準備がおろそかなのです。さらにSNS特有の力学が作用している負の側面も踏まえ、冷静に情報収集を行い、どのようなカラクリでそうなったのかを見極める必要があります。
かつて東洋水産の人気インスタントラーメン「マルちゃん正麺」のプロモーション漫画が炎上しました。父親が子どもにラーメンを作るというほのぼのとした話でしたが、帰宅した母親が彼らの使った食器を洗うという流れに文句がつきました。同社は、謝罪などはせず、意見を真摯(しんし)に受け止めるとし、シリーズの掲載は継続しました。反響を無視せず、「さまざまなご意見」として次回以降の「精査」に生かすという対応でした。
少数のクレーマーがいかようにも炎上させられる時代には、企業だけでなく、私たちの観察眼も試されます。例えば、ある話題が炎上したときに、「一体何が起こっているのか」「誰が誰を傷つけているのか」「そもそも騒ぐべき問題かどうか」などを冷静に考えるべきでしょう。
また、私たちの日常がスマホの画面、特にSNSという生態系に侵食されればされるほど、日々の努力の積み重ねで成り立つ「社会を変えること」よりも、「ネット上のコントロールしやすい対象」に関心が向かいやすくなることに注意する必要がありそうです。なぜなら、それによって関心の外に置かれるのは、実生活でストレスを感じたり悩んだりしている私たち自身であり、私たちの近くで苦しんでいたり困ったりしている他人であったりするからです。
(評論家、著述家 真鍋厚)
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