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「実母の葬儀」で起きた”骨肉の争い”の危機~実録・ボディガード体験談

穏便に収めるための「3つのタイミング」

 控室では10分ほど話しましたが、結局、お互い感情的になることはなく、葬儀費用の件は後日弁護士に相談するということで解決しました。おそらくこのケースの場合、あのまま放置しても、暴力までは発展しなかったと思います。しかし、なるべく穏便に収めるためのポイントとなるタイミングが3つありました。まず、「最初に大声で怒鳴り合ったとき」、次に「場所を変えて仕切り直したとき」、最後に「第三者の私が立ち会ったとき」です。

 最初の怒鳴り合いは、2人の感情のピークでした。高ぶった感情を放置すると、双方とも引くに引けなくなります。しかし、ピークで水を差せば、怒りの矛先がズレて、わずかに冷静になります。多くの人にとって、暴力は手段であって目的ではありません。しかも、冷静なときには選ばない手段です。逮捕や実刑など、本来は誰も望んでいないからです。

 次に「場所を変えた」ことで、さらにクールダウンの時間を稼ぐことができました。別フロアだったのは偶然ですが、インターバルを長く取れたのはラッキーでした。ちなみに、控室までの移動中に、「声のトーンを2つほど落とすと、弟さんも冷静になりますよ」と、お兄さんには伝えています。

 最後が「第三者の同席」です。普通の人は、赤の他人が見ている前では、簡単に暴力を振るいません。今回のケースでは、この3つがうまくハマりましたが、これはあくまで理想論です。しかし、適切な間と言い方次第で、結果は大きく変わります。暴力のきっかけは、ほとんどが「売り言葉に買い言葉」。言葉にさえ気を付ければ、多くの被害は避けられるのです。

 ちなみに、翌日の告別式では、弟さんが話し掛けてきたのは帰り際のあいさつだけでした。結果、初日の小競り合いの他は大きなトラブルもなく終了しました。実際に、セレモニー関連の案件は、何も起きないケースがほとんどです。まれに警察沙汰になる事例もありますが、ほとんどのケースでは、われわれの出番はなく終了します。

 体感的には、今回のようにささいなものを含め、トラブルが起こるのは約3割。その中で深刻な暴力に発展するのは、さらに1割以下、つまり全体の3%弱と思います。しかし可能性は低いとはいえ、需要が多いということは分母も大きいということ。そのため、セレモニー関連のシチュエーションにおける警備では特に、十分な警戒が必要とされるのです。

(一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統)

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加藤一統(かとう・たかのり)

一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事

1995年より身辺警備(ボディーガード)に従事し、これまで900件以上の警護依頼を請け負う。業界歴26年。現在は、優良なボディーガード会社や探偵会社を探すユーザーに向けた無料紹介所「ボデタンナビ」を主宰。紹介だけでなく、企業のセキュリティーから家庭の防犯まで、網羅的な質問にも答えている。護身・防犯用品の設計企画を行う「タカディフェンスデザイン」も運営。ボデタンナビ(https://bhsc.or.jp/)、タカディフェンスデザイン(https://www.t-d-design.com)、公式ツイッター(https://twitter.com/bodetan)。

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