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ウクライナ問題、アスリートも「NO WAR!」…”スポーツの力”は戦争を止められる?

ロシアとウクライナの問題を巡り、スポーツ界でも反戦を訴える動きがあります。スポーツと戦争、平和を巡って、これまでにどのような動きがあり、それはどのような影響を与えてきたのでしょうか。

サッカー元ウクライナ代表のシェフチェンコ氏がインスタグラムに投稿した、反戦を訴える写真(2022年2月、時事)
サッカー元ウクライナ代表のシェフチェンコ氏がインスタグラムに投稿した、反戦を訴える写真(2022年2月、時事)

 ロシアがウクライナへの攻撃を始めたことを巡り、スポーツ界でも反戦メッセージを掲げるアスリートが現れたり、ロシアでの国際試合が禁止されたりといった、さまざまな反応が出ています。スポーツと戦争、平和を巡って、これまでにどのような動きがあり、それは人々にどのような影響を与えてきたのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

母国の内戦止めたドログバ選手

Q.ロシアの動きについて、アスリートが反戦メッセージを掲げるなどの動きが出ています。このことをどのように捉えておられますか。

江頭さん「昨夏の東京五輪でも、2月20日に閉幕した北京冬季五輪でも、ウクライナ選手と一緒に競技を行ったアスリートは少なくありません。彼らは世界一の座を競い合う仲間であり、お互いを尊敬し合っています。一緒に競技をした選手の母国、ウクライナが侵略されていることに心を痛めているでしょう。また、アスリートは自分の影響力を知っています。SNSでの発信も、ゲーム中のメッセージも、多くの人に届きますので、フェアではない侵攻を、率先して止めたいのだと思います。

『スポーツマンシップは、きれいごと』と言う人もいます。確かに、現実社会では真正直過ぎて、恥ずかしくなるような言葉を使うことも珍しくありません。しかし、現実社会が複雑になり、成果主義になってしまったからこそ、スポーツの現場では『きれいごと』を守っているのです。多くのトップアスリートはスポーツマンシップを理解していますので、この戦争への嫌悪感が人一倍あるのではないでしょうか。心の底から『戦争をやめてほしい』と思っている。だから黙ってはいられないのでしょう」

Q.過去にもこのような動きはあったのでしょうか。

江頭さん「2005年10月のFIFAワールドカップ(W杯)予選で、コートジボワール代表のドログバ選手は試合終了後、勝利に湧くロッカールームから、テレビカメラに向かって語り掛けました。当時、コートジボワールは内戦状態にありました。

『心からお願いします。北部も南部も皆、許しあってください。アフリカ大陸にあるわれわれの豊かな国が、内戦状態に陥り続けていてはいけません。お願いです。武器を置いてください。選挙を行いましょう。そうすれば、すべてが良い方向に進みます』

このドログバ選手の発言が大きなきっかけとなって停戦となり、その後、コートジボワールは選挙を実施。W杯翌年の2007年に、和平合意が成立しています。

ドログバ選手はコートジボワールにおける『HERO』(英雄)です。誰もが知っている偉大なアスリートです。時にスポーツHEROは、国家元首より国民への影響力があることを証明した出来事でした。

このことをキッカケに、トップアスリートの中では、自分の社会的役割、HEROとしての振る舞いを重要視する傾向が見られます。ですからメッセージを発信しているアスリートの訴えは、『戦争をやめてほしい』というシンプルな内容ばかりです。ロシアを非難するのではなく、平和を願っているのです。

また、1994年まで南アフリカで行われていた、人種隔離政策『アパルトヘイト』を撤廃することにも、サッカーは大きな貢献をしています。南アフリカの都市ケープタウンから約12キロの沖合にあるロベン島に、政府に反対する政治犯を収容した刑務所がありました。ここには、後に大統領となるネルソン・マンデラ氏や、政府の要職を務めることになるウォルター・シスル氏らが収監され、刑務所内部で反政府思想者が団結していったのです。

1960年代には、ロベン島刑務所内に、受刑者たちが『マカナ・サッカー協会』を設立。当時の南アフリカはアパルトへイトへの制裁としてFIFAワールドカップ予選への出場は認められていませんでしたが、刑務所内のマカナ・サッカー協会宛てに、FIFAがワールドカップ予選への招待状を送ったといわれています。このマカナ・サッカー協会は、白人から初めて自由を勝ち取った象徴と言われ、サッカーが人種差別政策を終わらせることに大きな貢献をしたと考えられています」

Q.スポーツ界の動きは、人々にどのような影響を与えるのでしょうか。

江頭さん「現代のトップアスリートはHEROです。偉人です。小学校の図書室にある『偉人伝』に名を連ねる野口英雄やエジソン、リンカーン、坂本龍馬にはピンと来なくても、イチローさんや、中田英寿さん、吉田沙保里さんの努力と成功は、身近に感じられます。時代の変化もあり、子どもたちが尊敬する人物も『総理大臣』から『アスリート』へと変化して来ています。

HEROとなったアスリートは、スポーツマンシップを実行しています。うそをつかずに、自分と闘って、挑戦し続けている。彼らのクリーンな印象が、『戦争』との強いコントラストがあるため、人々の心に残るのだと思います」

Q.五輪と戦争・平和の関係については。

江頭さん「オリンピック停戦決議に注目すべきです。そもそものオリンピックの理念でしたが、国際オリンピック委員会(IOC)が国連に働き掛けて1993年、国連史上いかなる決議よりも多くの加盟国に支持されて成立しました。毎回五輪開催時に、紛争国に呼び掛けています。

北京冬季五輪の開会式には、プーチン氏が参列していました。ロシアはドーピング問題で、北京冬季五輪に国家としての参加が認められず、アスリートがメダルを取っても、国旗も国歌も使用禁止になっていました。その状況でIOCがプーチン氏を招くとは考えられません。国家名誉の為に、アスリートを薬物で傷つけた責任がある人物ですから。プーチン氏は習近平氏に招待されたと考えられます。

そのプーチン氏の前でバッハ会長は『オリンピック停戦決議は193の国連加盟国、全会一致で決まりました。オリンピックの平和精神のもと、私は世界全ての政治当局に訴えます。停戦の約束を守ってください。平和にチャンスを与えてください』とスピーチしました。

全世界に放送されている開会式です。その場で『約束を守ってください』とプーチン氏に向かって言った効果は大きかったと思います。五輪期間中は、ロシアの攻撃は始まりませんでした。3月4日からパラリンピックが北京で開催されます。その場でバッハ会長が、ロシアの侵攻をどう表現するのか注目しています。

私個人の見解としては、パラリンピック開会式までに、ロシアはウクライナ侵攻に決着をつけると考えていました。親交の深い習近平氏が、パラリンピック期間中の停戦を強く求めると思われるためです。しかしウクライナ軍の抵抗が想定以上となり、短期決戦の可能性は低くなっています。それでもロシアにはオリンピック停戦決議を守ってほしいと、強く願っています。

既にIOCは、ロシアと協力国のベラルーシの選手を国際大会に参加させないよう、各国際競技団体に対し要請しています」

Q.今回のような事態が起きたとき、アスリートやスポーツ界としては、どのような姿勢が望ましいのでしょうか。

江頭さん「アスリートに戦争の罪はありません。生まれた場所や、言語、宗教、肌の色で、人物を差別しないのが、オリンピック精神であり、スポーツに関わる全ての人に求められる基本姿勢です。矛盾していますが、国際競技会への参加権利剥奪という制裁が、効果を発揮した前例も存在します。

ロシアにとって、ドーピングをさせてでも五輪でメダルを取ることに注力して来た過去から考えると、効き目が期待できます。また国際競技会への参加権利剥奪により、ロシアの国民感情に訴え、ロシア国内からこの惨劇を止める力になる可能性にも期待したいです。

ロシアのアスリートとスポーツ関係者には、国家の圧力に屈することなく、平和的な、自分の意見を発信してほしいです。ウクライナ選手と親交のあるロシア人アスリートもいるはずです。これまでにウクライナとロシアの熱戦を観戦した人もいるはずです。

当事国以外のアスリートは、素晴らしい才能を持ったアスリートが戦争で参加できなくなるパラリンピックや、国際競技大会を悲しんでいるでしょう。スポーツは対戦相手がいなくては成立しない種目が多く、一緒にゲームをする『仲間』であり、『敵』では決してありません。ロシアを超えることを目標に練習に励んできたアスリートは、きっと残念で悲しい思いをしているでしょう。その気持ちを発信してください。トップアスリートはHEROとしての振る舞いを期待されています。

スポーツはルールにのっとり、フェアに行うもので、暴力で自分の主張を通そうとする戦争とは、正反対のものです。スポーツの動詞は『PLAY』であり『遊び』です。『PLAYER』は『遊ぶ人』と訳すこともできます。武器を捨てて、早く世界の国々の人たちが一緒にスポーツをPLAYしてほしいですね」

(オトナンサー編集部)

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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