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高級マンションの70代男性死亡 コロナが変えた「孤独死」の現場

新型コロナウイルスの影響で、孤独死の状況はより深刻となっています。コロナ禍における孤独死の現場について、ノンフィクションライターが取材しました。

深刻さを増している孤独死の現場
深刻さを増している孤独死の現場

 筆者は2015年ごろから、孤独死(主に1人暮らしの人が病気や自殺など何らかの理由で突然亡くなり、その後、遺体が誰にも発見されることなく、長期間放置されること)に関する取材を行っていますが、新型コロナウイルスが流行する中、孤独死を巡る現状はこれまで以上に深刻になっています。

 コロナ禍以前だと遺体は早ければ、亡くなってから2日後から3日後、遅くても1カ月ほどで見つかるケースが多かったのですが、新型コロナウイルスの流行が本格化して以降、亡くなってから約3カ月後に発見されるケースが相次いでいるのです。

高齢者の孤独死が表面化

 例えば、春に亡くなった人は夏に、夏に亡くなった人は秋にといったように、季節をまたいで発見されるのがコロナ禍の特殊清掃現場では日常の風景になっています。長期間遺体が放置されるとその分、部屋のダメージも深くなります。現に特殊清掃業者(孤独死や自殺の現場などの原状回復にあたる業者)は今年、部屋の全面リフォームを手掛ける件数が多くなっています。

 新型コロナウイルスを巡っては、こうした特殊清掃業者の負担も大きくなっています。孤独死の中に、死因として新型コロナが疑われるケースがあるからです。そのため、業者は事前に、ご遺族に死亡診断書を提示してもらったり、マンションの階段などの共有部分にウイルスを持ち出さないよう壁伝いで家財を運び出したりするなど、手探りながらも細心の注意を払い、作業を行っているのが現状です。

 また、今年の取材において肌で感じるのは、コロナ禍以前はそれほど深刻化していなかった高齢者の孤独死がより一層表面化しているという事実です。集会やお祭りが中止されたり、民生委員が高齢化していたりすることで、それまで地域の見守りの担い手だった人たちが活動できなくなっていることが要因だと考えられます。

 高齢者サポート事業を行っているある民間事業者は「新型コロナウイルスの流行後、高齢者は病院の診療や外出を控えるようになりました。その結果、自宅にひきこもる人が増え、孤立感を深め、うつ状態に陥っている人たちが増えています」と警鐘を鳴らします。

 筆者が取材した、高級マンションに住むある70代の男性は夏に亡くなりましたが、秋ごろまで遺体が発見されませんでした。男性の部屋には大量のマスクと備蓄品があり、新型コロナウイルスの感染を恐れて、できる限り外に出ない生活を送っていたようです。家の中は荒れ果て、ごみ屋敷状態でした。男性は周囲から孤立しており、親族も現れなかったことから、マンションの管理組合がその清掃費用を立て替えました。このような事態が日本各地で起こっています。

 孤独死に至る原因はさまざまですが、失業をきっかけにひきこもるようになり、精神的に追い詰められた結果、家をごみや物であふれさせたり、飼いきれないほど多くのペットを飼ったりするなどの「セルフネグレクト(自己放任)」に陥り、孤独死するケースが多いです。今後、コロナ禍で職を失った人たちの中には、セルフネグレクトによる孤独死に陥る人が増える可能性もあります。

 また、今年は新型コロナウイルスをきっかけに自宅に閉じこもるようになり、その結果、自殺という結末を迎えたケースが男女ともに多かったです。特に、女性の自殺の案件に遭遇することが増えました。

 関東のタワーマンションに住んでいたある女性は何不自由ない生活を送っていたようですが、人間関係は少なく、唯一、マンションの管理人だけが話し相手だったようです。しかし、それもコロナ禍においてかなわなくなり、やがて自宅にこもるようになり、ふさぎ込むようになったそうです。後日、自室で自殺しているのが発見されました。

 では今後、新型コロナウイルスが終息し、経済活動や人の往来が本格的に再開されれば、孤独死に陥る人は減るのでしょうか。筆者はそうは思いません。何らかの出来事をきっかけにセルフネグレクトや長期のひきこもりに陥った人など、社会から孤立した人はコロナ禍以前から一定数おり、そうした人たちを何らかの形で支援しない限り、孤独死の状況は改善しません。

 例えば、80代の親が50代のひきこもりの子どもの生活を支える、いわゆる「8050問題」が社会問題化していますが、近年、それが孤独死という最悪の形で表面化してきているという危惧を抱かざるを得ません。筆者が今年、取材した60代の女性が孤独死したケースはその典型でした。

 その女性は40年以上にわたって、自宅にひきこもっていました。女性は最後は母親と暮らしていましたが、認知症だった母親が施設に入所したことで、たった1人、家に取り残され、その数週間後に孤独死しました。エアコンがつかなかったことから、死因は熱中症だと思われますが、最後に1人になった女性の気持ちを思うと、いたたまれなくなりました。

 一般社団法人日本少額短期保険協会(東京都中央区)が11月27日に発表した「第5回孤独死現状レポート」によると、孤独死者の平均年齢は男女ともに約61歳で、平均寿命よりも20歳以上若くして亡くなっています。また、孤独死発生から発見までの平均日数は17日で、2週間以上も発見されないという痛ましい事実が明らかになりました。

 先述のように、孤独死の前段階には人々の「社会的孤立」の問題が横たわっています。国は孤独死の正確な数を発表していませんが、筆者はコロナ禍において、孤立する人たちがますます増えていると感じます。新型コロナウイルスの影響で人と人との接触を避ける動きが広まり、人の孤立を巡る現状は深刻化しています。つまり、コロナ禍は「孤立禍」というもう一つの危機を浮き彫りにしたのです。

 日本が孤立社会に向かっているのは間違いなく、社会全体の問題として歯止めをかける必要があります。英国では国を挙げて、孤独・孤立対策を行っています。日本も事態の深刻さを認識し、国家ぐるみの政策を打ち出すことが解決の一つの糸口になるでしょう。

(ノンフィクションライター 菅野久美子)

菅野久美子(かんの・くみこ)

ノンフィクションライター

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社の編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に「大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました」(彩図社)、「孤独死大国」(双葉社)などがある。また「東洋経済オンライン」などのウェブ媒体で、孤独死や男女の性にまつわる記事を多数執筆中。最新刊は「超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる」(毎日新聞出版)。

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