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「ストリップ」に魅せられる女性たち 美しさ、はかなさへの共感が明日の活力に

従来、男性が行くイメージが強かった「ストリップ劇場」ですが、最近は女性客も増えているようです。

浅草ロック座(2014年7月、時事通信フォト)
浅草ロック座(2014年7月、時事通信フォト)

 ストリップにハマる女性たちのことを「ストリップ女子」、通称「スト女」といいます。筆者もストリップの魅力につかれた人です。ストリップの世界に足を踏み入れたのは、2017年に横浜ロック座が実施した女性向けの無料興行がきっかけでした。

 ストリップの世界には、多種多様な世界で活躍した才能の持ち主がいます。現在、浅草ロック座の新春公演に出演中のみおり舞さんは、ローザンヌ国際バレエコンクールでセミファイナリストという実力派です。また、天井からつるした布(シルク)を使って演技する「エアリアルシルク」などの空中戦を得意とし、中性的な魅力を持つ武藤つぐみさんには、根強い女性ファンがいます。

踊り子の力強さ、はかなさに共感

 そもそも、ストリップの女性ファンが増え始めたのは、アイドルグループ「恵比寿★マスカッツ」に所属していた上原亜衣さんが2016年、浅草ロック座に出演したのがきっかけです。同グループは、女性にも人気のセクシー女優やグラビアアイドルなどで構成されていました。

 女性ファンの増加に伴い、劇場も女性客向けのサービスを向上させました。横浜ロック座は2016年に女性優先席を導入しました。浅草ロック座はブランケットの貸し出しを始め、女性トイレに、綿棒や油取り紙、高級ティッシュ、生理用品、劇場に関する感想を書き込めるノートを設置しました。女性が気軽に利用できる環境を整えているため、他の劇場より女性客が多く、女性同士で来る人もいれば、1人で来る女性もいます。

 もちろん、サービスだけではなく肝心の演目も充実しています。ストリップは「裸」という身体表現を通じて、さまざまな女性の一面を伝えてくれます。一糸まとわぬ姿になるからこそ、女性のもろさやエロス、そして、はかなさや美しさが呼び覚まされるのです。そのため、同じ女性として共感する部分があります。

 ストリップでは、1つの演目を「景」と呼びます。ストリップの殿堂である浅草ロック座では通常、7人の踊り子さんたちが7つの景を演じます。それぞれの景が演目によってがらりと変わるのが特徴です。例えば、人形浄瑠璃やミュージカル、映画、伝承をテーマにしたものなど多種多様です。

 例えば、浅草ロック座で1月31日まで開催中の新春公演「騒 Roaring」は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した数少ない女性武将、板額御前(はんがくごぜん)をテーマにした景で、須王愛さんという踊り子が演じています。静かで穏やかな音の中、スモークが充満する場内で、物々しい武具に身を包んだ須王さんは、弓を構え、一本の矢を放ちます。まるで、それが戦いの終わりを告げるかのように――。

 板額は、鎌倉幕府打倒の反乱軍の一方の将として奮戦したものの、最終的には捕虜となったそうです。鎌倉に送られ、2代将軍・源頼家の面前でも全く臆した様子がなく、その態度に感銘を受けた甲斐源氏の武将の妻となったといいます。

 須王さんは戦士として、一人の女性として、波乱万丈だった板額の生涯をなぞるかのように、見るからに重そうな武具をゆっくりと、一つ一つ丁寧に脱いでいきます。「この女武将が武具を脱ぎ捨てる瞬間はどんな思いだったのか」と考えると、さまざまな感情が交錯し、胸が張り裂けそうになります。

 まとっていた全ての武具を脱ぎ捨て、上半身はさらし、下半身は青色の羽織姿の須王さんはハッとするほど美しく、誰よりも力強く、優しさや芯を感じさせました。まるで、悠久の時を経て、板額が現れたかのようでした。

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菅野久美子(かんの・くみこ)

ノンフィクションライター

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社の編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に「大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました」(彩図社)、「孤独死大国」(双葉社)などがある。また「東洋経済オンライン」などのウェブ媒体で、孤独死や男女の性にまつわる記事を多数執筆中。最新刊は「超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる」(毎日新聞出版)。

コメント

1件のコメント

  1. 一度は行ってみたいと思ったこともあったな