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コンプライアンスは無縁? テレビがエロやタバコNGで「お酒」だけOKの理由

脚本・演出の手法として欠かせない

 お酒だけ許されている理由は主に3つです。

 1つ目は、大手スポンサーの存在。飲料メーカーのCMがテレビ局の収入源として重要なのは言うまでもありません。「お酒のCMを流しているのだから、番組内の飲酒シーンも問題ない」「むしろ自然な形でお酒のシーンを取り入れてスポンサーを喜ばせよう」と考えているのです。ただし、「未成年がメインターゲットの番組では避ける」「ティーンへの影響力が強いタレントには飲酒させない」など一定の規制は見られます。

 2つ目は、お酒を絡めた脚本・演出で番組を盛り上げたいから。たとえば、ドラマなら脚本に飲酒シーンを入れることで登場人物がトラブルに巻き込まれたり、一夜の過ちを犯したりすることで、話を大きく動かすことができます。一方、バラエティー番組ではタレントの意外な素顔を見せ、本音トークを引き出すための演出としてお酒を使用。実際、飲酒シーンでの言動はネットニュースでよく取り上げられています。

 つまり、テレビ番組にとって「お酒は脚本・演出の道具として欠かせないもの」ということ。さすがに「アルコール度数の高いお酒をあおる」「一気飲みは盛り上がって楽しい」などの過激な脚本・演出はNGですが、ギリギリのラインまで活用することでエンターテインメントとしての魅力を上げようとしているのです。

 3つ目は、お酒が「最後の砦」となっているから。冒頭に挙げた通り、かつては許されていたバカ、エロ、暴力、タバコに関する表現が制限されるようになり、「あと残っているのはお酒だけ」という状態になりました。そのため、飲酒運転事故や泥酔暴行などの事件が起きた時、ワイドショーでは「飲酒が悪いわけではなく、事故や事件を起こす人が悪い」と強調するなど、お酒を守ろうという姿勢が見られます。

 視聴者サイドも、嫌煙社会に突き進むタバコほどのバッシングはしませんし、現段階では飲酒シーンを楽しみながら見ている人が多数派。「お酒を飲みながらテレビを見る」という人も多く、お酒好きな人とテレビ視聴者の相性は良いという側面もあるでしょう。

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木村隆志(きむら・たかし)

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

雑誌やウェブに月間30本前後のコラムを寄稿するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各局のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアー、人間関係のコンサルタントとしても活動中。著書に「トップ・インタビュアーの『聴き技』84」「話しかけなくていい!会話術」など。

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