民放全局が「選挙特番」を横並び放送するのはなぜか 背景と問題点
明日10月31日に迫った衆院選。各局が「選挙特番」を放送し、選挙一色になることが予想されますが、そもそもなぜ、これほど横並びになってしまうのでしょうか。筆者が解説します。
衆議院選挙が重要であることは間違いありません。しかし、民放のテレビ局が営利事業である以上、よりスポンサーを集め、高視聴率を獲得することも重要。さらに、国政選挙の投票率が50%前後しかないことを見れば、関心の低い人も多いことが分かります。
それならば、「横並びで選挙特番を放送するより、通常番組を放送する方が差別化になり、高視聴率を獲得できる」と考えるテレビ局があっても不思議ではありません。実際、テレビ東京は震災や大事件のときに通常番組を放送して高視聴率を獲得したほか、「さすがテレ東」と称賛を集めたことが何度もありました。
もともと、テレビは「チャンネルごとにまったく違う番組を見られる」という多様性を武器にして収益を上げてきただけに、選挙の重要性を加味しても、横並びの放送を続けることには疑問が残ります。なぜこれほど、選挙一色になってしまうのでしょうか。
選挙特番はジャーナリズムの象徴
もともと、テレビ局には「報道、教育、教養、娯楽の4ジャンルをバランスよく手がける」という番組制作の基本スタンスがあります。
その中の「報道」というジャンルで最重要項目の一つに位置付けられているのが国政選挙。民放各局で“ジャーナリズム”という使命を背負う報道番組に関わる人々にとっては「『これを報じない』という選択肢はありえない」のです。
それは日本テレビの「世界の果てまでイッテQ」、テレビ朝日の「ポツンと一軒家」、TBSの「日曜劇場 日本沈没-希望のひと-」、フジテレビの「鬼滅の刃」など、高視聴率が期待できる人気番組を放送休止して、長時間特番を放送していることからも分かるでしょう。
もう一つ、選挙特番の放送で重視されているのは、生放送で投票結果が明らかになるスリリングさと、政治家や関係者が見せる悲喜こもごも。近年、選挙の臨場感とコントラストをエンターテインメントのように見せるテレビ東京の「池上彰の選挙ライブ」が民放トップの視聴率を獲得していることからも、それが分かります。
同番組は10月31日の放送でも「『池上無双!政党幹部とのガチ中継』『元祖!面白プロフィール』『悪魔の辞典2021』『恒例!池上バスツアー』…こんなにドキドキする選挙特番は他にはありません!」と掲げるなどエンタメ性を前面に押し出しています。テレビ東京のスタッフに限らず、選挙特番を手がける人々の中に「単に横並びで放送しているわけではない」「見てもらうための工夫をしている」という自負があることは間違いないでしょう。
とはいえ、日本テレビが約8時間、テレビ朝日、TBS、フジテレビが約6時間、テレビ東京が約4時間もの「長時間にわたって放送する必要性があるのか」といえば疑問が残ります。さらに、選挙特番への疑問はそれだけではありません。
五輪のような持ち回り放送もアリか
国政選挙が行われるたびに、長時間放送と並んで批判されがちなのが出演者の顔ぶれ。今回も日本テレビに櫻井翔さん、TBSに爆笑問題、トラウデン直美さん、りゅうちぇるさん、フジテレビに井上咲楽さん、テレビ東京に梅沢富美男さん、宮崎美子さん、A.B.C-Z・河合郁人さん、AKB48・横山由依さん、伊原六花さん、朝日奈央さんら芸能人が出演します。
中には報道・情報番組でキャスターやコメンテーターを務めている人もいますが、それでも政治の専門家ではないため、批判を受けてしまうのも仕方がないでしょう。芸能人の起用には「他局との争いに勝って、見てもらうための差別化」「ファン、ファミリー層、若年層にも見てほしい」などの意図がありますが、やはりこれも横並び放送による弊害の一つなのです。
民放各局の事情や自負は理解できる一方、本当に視聴者のことを考え、視聴率を獲得したいのなら、例えば、五輪中継のように1~2局が持ち回り放送にした方がいいのかもしれません。
もちろん、選挙特番に五輪のような放映権はなく、放送するのは自由。しかし、ネットコンテンツの脅威にさらされ続けている中、こうした機会がさらなるテレビ視聴者数の減少につながりかねません。しかも、選挙特番の主要視聴者層は50代以上の高齢者が中心であり、民放各局が最も求める10~40代がネットコンテンツに流出しやすい傾向があります。
その他、「各局が政治家へのインタビューを行うため、話が短くなり、中途半端に終わる」「コロナ禍の中、各局の記者が現場にかけつけることで密になる」などの問題点もあり、やはり、選挙特番を考え直す時期に来ているのではないでしょうか。
(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)
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