オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

不倫問題の瀬戸大也選手に求められること 東京五輪代表辞退すべき?

競泳の瀬戸大也選手が不倫発覚をきっかけに、日本水泳連盟から年内の活動停止処分を科されるなど崖っぷちの状況にいます。名誉挽回のためには、どのような対応が求められるのでしょうか。

瀬戸大也選手(2019年7月、時事)
瀬戸大也選手(2019年7月、時事)

 東京五輪代表に内定していた競泳男子の瀬戸大也選手の不倫報道が波紋を広げています。瀬戸選手は所属先のANA(全日本空輸)から契約を解除され、その後、日本オリンピック委員会のシンボルアスリートと競泳日本代表主将を辞退しました。契約解除で国内大会の出場が困難となり、日本水泳連盟から年内の活動停止処分を科されるなど、まさに崖っぷちの状況といえます。

 ところでかつて、瀬戸選手と似た境遇にあったスポーツ選手として、バドミントンの桃田賢斗選手がいます。桃田選手は違法カジノ店での賭博行為が2016年4月に発覚し、確実視されていたリオデジャネイロ五輪出場が消滅しましたが、その後、競技に復帰し、けがに悩まされながらも東京五輪の代表を勝ち取りました。

 瀬戸選手が桃田選手のように名誉挽回するためには、今後どのような対応が求められるのでしょうか。また、東京五輪の代表は辞退すべきなのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事で尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。

今回の処分は妥当

Q.日本水泳連盟はスポーツマンシップに違反したとして、瀬戸選手に年内の活動停止処分を科しました。ただ、不倫はあくまで個人間の私的な行為であり、違法とまではいえないと思います。本当に処分する必要があったのでしょうか。

江頭さん「不倫は刑法に違法とする条文はありませんが、民法上は『婚姻共同生活の平和の維持』という権利を侵害する行為であり、不法行為とみなされます。過去の裁判例では、婚姻関係にあるパートナーに精神的苦痛という被害を与えたとされ、慰謝料を支払うよう裁判所から命じられるケースが多いようです。民事裁判の結果のため、犯罪者になることはありませんが、法に反したことに変わりはありません。何らかの処分は必要だったと思います。

日本水泳連盟倫理規程1条には『本連盟の目的、事業執行の公正さに対する社会からの疑惑や不信を招くような行為の防止を図り、もって、本連盟に対する社会的な信頼を確保することを目的とする』と書かれています。瀬戸選手の不倫は『社会からの疑惑や不信を招くような行為』に該当する可能性が高いです。

また、日本水泳連盟処分規程には違反行為として、『暴力、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントおよび差別などをはじめとする不法行為を行ったとき』と書かれています。不倫は不法行為であり、この記述に該当します。以上のことから、私は数カ月の『登録期間の停止』といった処分になると予想していたため、今回の処分は妥当だったと思います」

Q.それでは、ANAが瀬戸選手との契約を解除したのもやむを得ないことだったのでしょうか。

江頭さん「スポンサーは自社のイメージをよくするためにアスリートの支援を行っています。もし、ANAが瀬戸選手の不倫発覚後も契約を継続していたら、不法行為を間接的に容認することになります。企業が契約を解除するのは当然でしょう。

また、不倫報道から契約解除までの期間が短かったことから、スポンサー契約書に『スキャンダルなどの場合に契約解除する』といった記載があった可能性が高いと思われます。もしそうであれば、両者が合意の上で結んだ契約をANAは守ったにすぎません」

Q.「東京五輪の代表を辞退すべきだ」という声もありますが、瀬戸選手は代表を辞退すべきなのでしょうか。

江頭さん「スポーツマンシップの観点からいうと、スポーツマンシップは私生活まで言及していませんが、英語の『SPORT』には日本でいう『スポーツ』とは異なる意味もあり、例えば、『You are good sport』という英文には『あなたは潔い人、気持ちのいい人』といった意味があります。また、オリンピック選手は『HERO』(英雄)であり、『子どもたちの憧れ』という役割を果たさなくてはなりません。

日本水泳連盟と日本スポーツ協会、日本オリンピック委員会が定めた競技者資格規則の第2条には『スポーツマンシップ』という項目があります。そこには『善良な市民、健全な社会人としての品性を保ち、市民社会における水泳スポーツの地位の向上に寄与すること』という記述があります。

不倫がこの記述に抵触するかどうかで判断すると、瀬戸選手はこれに反していると思います。不法行為を働いた人を、善良な市民とはいえません。健全な社会人としての品性を保っていたならば、不倫はしなかったでしょう。つまり、(1)協会の規則に反していること(2)『HERO』として『子どもたちの憧れ』に不適合なこと(3)『good sport』といえない行為であること――の3点から、東京五輪の出場を辞退することが賢明だと思われます。

なぜなら、今後、連盟が瀬戸選手の五輪出場を認めなかった場合、SNSなどで連盟に対する批判が起きると考えられるからです。ネット上では、状況をきちんと理解しないまま批判する人が多い傾向にあり、そのことで、瀬戸選手を支えてきた連盟の人たちが非難される原因となり得ます。自ら辞退するのが、潔いのではないでしょうか」

本人に求められる対応は?

Q.スポーツ選手が不祥事を起こした場合、その選手本人はどう対応するのが望ましいのでしょうか。例えば、民間企業や自治体が不祥事を起こした場合とは違う対応が求められますか。

江頭さん「瀬戸選手本人は潔く全てを認め、謝罪し、正面から罰を受けることです。犯してしまった罪を反省し、社会に対して『不倫は罪だ』という印象を与える必要があります。自ら『悪い見本』として、同様の過ちを犯す人が思いとどまるきっかけをつくっていただきたいです。

スポーツ選手にもさまざまな状況の人がいます。世界大会入賞経験がある『有名人』に限っていえば、ビジネスマンもアスリートもあまり違いはないと思います。その人の肖像権がビジネスになっている場合なら、その違いはもっと少なくなるでしょう。ただ、アスリートはスポーツマンシップを順守するのが当たり前だと思われています。スポンサーもそれを期待し、クリーンなイメージの存在としてアスリートを支援しています。

ここ数年、日本人の『HERO』はアスリートが多い傾向にあります。例えば、サッカーの三浦知良さんは誰しもが尊敬する『HERO』で、毎日の生活から自分を律し、パフォーマンスを維持しています。その努力が人を引きつけ、『HERO』にしているのだと思います」

Q.今後、瀬戸選手は桃田選手のように立ち直ることはできるのでしょうか。

江頭さん「もちろん、可能だと思います。『罪を憎んで人を憎まず』という言葉もある通り、過ちを犯した人には再起の機会を与えるべきです。最近の社会は罪を償ったら復帰を認める風潮になりつつあります。ただ、年齢的な問題もあり、瀬戸選手がアスリートとして水泳界の第一線にいつまでいられるかは定かではありません」

(オトナンサー編集部)

江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

コメント

林 圭 へ返信する コメントをキャンセル

1件のコメント

  1. さすがです。
    勝手に解釈して発言している芸能人やコメンテーターの馬鹿さ加減がよくわかります。
    正論はかくあるべきです。