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「定期購入」巡るトラブル増加 ネットの誤情報に頼らず、正しく対処するには?

年々増加しているネット通販の「定期購入」のトラブルに遭遇したとき、ネット上の対処法をよく参考にしますが、そこには誤りが多いそうです。正しい対処法を解説します。

「お試し価格」に引かれて購入すると…
「お試し価格」に引かれて購入すると…

 新型コロナウイルス感染症の拡大で外出する機会が減った結果、ネット通販の利用が拡大しています。ネット通販については近年、「定期購入」という仕組みによるトラブルが増えており、しかも、その“対処法”としてネット上に載っている情報には誤ったものも多いそうです。「定期購入」のトラブルと正しい対処法について、消費生活アドバイザーの池見浩さんに聞きました。

相談件数は2015年から10倍に

Q.ネット通販の「定期購入」とは、どのようなものですか。メリットとデメリットは。

池見さん「定期購入とは、一度注文すれば、以後は取引条件に従って一定期間、自動的に商品を購入できるという契約形態です。定期購入自体はネット通販に限らず、ワインや特産品の頒布会など、新聞・カタログ通販でも行われています。

メリットは定期的に必要なものについて、その都度注文する手間が省けることです。販売業者も例えば、4回分の定期購入なら4回分の契約をまとめて結ぶことで、販売コストや仕入れコストを下げることができ、単品注文時よりも低価格で販売できる場合があります。

デメリットは、基本的には契約した期間内の中途解約ができないことです。例えば、『初回お試し500円の定期4回コース』なら、初回で解約されると販売業者は赤字になってしまうので、中途解約できない契約にしているのです。ただし、契約条件(特約)にあらかじめ、中途解約する場合のルールが設けられていれば、その条件に従って解約できます。こうしたメリットやデメリットは、広告媒体や注文する手段にかかわらず、定期購入全体にいえます」

Q.どのようなトラブルが起きているのですか。

池見さん「定期購入のトラブルは『注文した覚えがないのに2回目が届いた』『初回のみで解約できると思っていたら断られた』という内容がほとんどです。しかし、通信販売は『自ら店と商品を選び、取引条件を確認して注文した』ことが前提なので、送り付け商法でも詐欺でもなく、定期購入契約が成立しています。契約は法的拘束力のある約束であり、結ぶときもやめるときも双方の合意が必要です。そのため基本的には、販売業者の合意がない返送や返品はできません」

Q.トラブルが年々増えていると聞きました。

池見さん「消費者庁の2020年版『消費者白書』によれば、全国の消費生活センターで受けた相談のうち、2015年1年間の定期購入に関する相談は4141件でした。翌2016年は1万3673件に急増し、2018年は2万1977件、2019年は4万4370件と、2015年比で10倍以上に激増しています。

2019年の相談件数を年代別に分類すると、20歳未満の未成年者が5317件、20代4019件、30代4383件、40代8992件、50代1万460件、60代6253件、70歳以上3024件、年代不明1922件となり、40代から60代までが非常に多い中、2019年は特に、未成年者から20代までの若者層の相談が目立っています。

定期購入で注文した商品の分類としては、健康食品が60.3%、化粧品が39.0%と、ほぼ2種類で占められています。健康食品は、主にダイエット効果や老化現象の軽減、筋肉増強などの効果をうたう飲料やタブレットです。化粧品では、美白クリームや美容液、脱毛、体臭予防、しわ隠しなどの美容液が多いです」

Q.定期購入のトラブルへの対処法として、誤ったものが多数、ネット上に書き込まれているというのは事実ですか。

池見さん「事実です。定期購入の商品名や販売業者名を検索すると、さまざまな書き込みがネット上にアップされています。多くはトラブルの経験談ですが、一部には、間違ったアドバイスや見解が書き込まれており、そのまま信じると解決が困難になる場合もあります。

例えば、あるQ&Aサイトでは『初回お試しだけのはずが、頼んでもいない2回目の商品と請求書が届いた。どうすればよい?』という質問に、『送り付け詐欺なので、すべて受け取り拒否すればよい』という誤った回答が記載されていました。この場合の正しい対処法は、販売業者と解約の合意ができていない限り、勝手に送り返してはいけません。詐欺でもないので販売業者へ連絡し、交渉してください。

このほか、代金の支払いについてのコメントで、『コンビニ後払いの請求書はそのまま返送してよい』『商品も送り返して、代金も支払わなくてよい』、解約方法についてのコメントでは、『何度電話してもつながらなければ、諦めるしかない』『詐欺なので警察に相談する』『通信販売はクーリングオフができないので、消費生活センターに相談しても解決しない』などと書かれていた事例がありました。いずれも誤った対処法や説明です」

Q.なぜ、誤った対処法が多数書き込まれているのでしょうか。

池見さん「あくまでも推測ですが、定期購入のトラブルが多発して、『他の人はどうなのだろう?』『この商品、業者は大丈夫? 詐欺なの?』といった、他人の意見や体験、助言を知りたいというニーズが増え、そのニーズに呼応して書き込みが増えたと思われます。アクセス数や『いいね』などが増えることへの期待から、十分なエビデンス(その事象が事実であるという根拠)の確認や知識がないまま書き込んでしまう人がいることも考えられます」

Q.誤った対処法が多数書き込まれていることについて、消費者庁などの公的機関は注意喚起をしているのでしょうか。

池見さん「コメントに対して、画一的に注意喚起することは行われていないと思います。基本的には、ネット上のコメントにも発言の自由が保障されており、書き込みを読んだ人にも信じるか否かの自由があるからです。しかし、消費生活センターの相談員や弁護士などの専門家が個別の相談を受けた際、『ネット上の書き込みを読んだ』といった話を聞いて『全ての書き込みが正しいとは限らない』と伝えていることは考えられます」

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池見浩(いけみ・ひろし)

消費生活アドバイザー・消費者考動研究所代表

インテリア商社で営業・お客さま相談窓口などを歴任する中、シックハウス症候群問題で企業と消費者とのギャップに強い疑問を持つ。退社後、消費生活アドバイザー資格を取得し、保険会社の苦情対応や法テラスコールセンターなどに従事。自治体の消費者啓発担当として、消費者被害防止の地域連携や市民向け講座講師、各種広報や講座企画等を経験後、行政の消費生活相談員として消費者相談にも従事。衣食住、法律、ライフスタイルなど消費生活全般、企業コンプライアンス、SDGsまで幅広く対応可能な消費生活の専門家として、行政の専門委員や企業の消費者志向コンサルティング、各種講座・研修講師、メディアでの情報発信など活躍中。消費者考動研究所フェイスブック(https://www.facebook.com/ShouhishaKoudou/)。

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