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枚数や色で評価されたのは昔! 「資料」は何より効率性が求められる時代

近著に「科学的に正しいずるい資料作成術」がある元マイクロソフト常務執行役員の越川慎司さんに、資料作成について聞きました。

今求められている理想の資料とは?
今求められている理想の資料とは?

 多くのビジネスパーソンは、日常的にさまざまな「資料」を作成しています。しかし、いい資料を作成したつもりでも、意図が相手に伝わらないことがあります。本来、資料の目的は、伝えたいことが伝わり相手を動かすことですが、伝わらないことがあるのです。なぜでしょうか。

 今回は、元マイクロソフト常務執行役員(PowerPoint事業責任者)の越川慎司さんに、資料作成について伺いました。近著に「科学的に正しいずるい資料作成術」(かんき出版)があります。

パワポはカラフル、かつ枚数が大事?

 以前、筆者が所属していたコンサルティングファームでは「資料の正確さ」「フォーマットの完璧さ」が求められていました。フォントのサイズ、リード文の長さ、図式の位置、ロゴマークの位置が数ミリずれているだけでいつも大騒ぎになります。

 プレゼンテーションは「プレゼント」という意味で理解されました。相手にプレゼントをする企画書に手抜かりがあってはいけないという意味です。企画書は見た目がすべて。ドキュメント数枚で合意形成をしなければいけないので、それがプレゼンテーションの姿だと考えていました。

 プレゼン前日は「KINKO’S」での作業が日課です。資料はカラーで製本されます。筆者が所属していたコンサルティングファームの社長は風水好きでした。ファーストコンタクトはオレンジ色(コミュニケーションを潤滑にする)、セカンド以降はピンク(信頼関係を築く)、プレゼンの際は表紙の色をイエローにしていました。「お金にしやすくなる」という理由からです。

 さらに、枚数も重視されました。企画書の枚数が多すぎるので「エグゼクティブサマリーで数枚にまとめましょう!」と進言しても、「資料数枚で数千万円の受注ができると思っているのか? 枚数が少なかったら熱意が伝わらないじゃないか!」と却下されます。その影響もあって、社員のパワポのテクニックは加速度的に向上していきました。

 パワポのカラフルでアニメーション的な動きがプレゼンで効果を発揮したこともあります。しかし、それはキレイという以外何も残せていないのかもしれません。「伝わる」、そして、その先にある「相手に動いてもらう」ことを意識しなければ資料作成としては失格です。

 越川さんは、自らの経験を次のように解説します。

「20年前に地方自治体の営業担当だった私は、パワポで提案資料を持参したところ、先方の担当者は中身を見ずにまず資料の枚数を数え始めました。そして、『他社のA社は60枚以上作成してきたので、御社も少なくとも50枚にして再提出してください』と言いました。中身ではなく、いかに時間をかけて準備をしてきたか測っていたのです」(越川さん)

「その案件を受注したかった私は徹夜で資料を作り直し、翌日にパワポを60枚にして提案したら後日受注したという笑い話です。20年前の昔話ではありますが、成果ではなく努力で部下を評価してしまう傾向がまだあると思います」

豪華なパワポは不要である

 かつては、大量生産、大量消費の時代でした。そのような時代は「言われたことだけやる」部下が必要とされていたのです。

「上司から言われた通りにすれば、売り上げが右肩上がりで伸びていくため、上司や会社への忠誠心が問われていました。どれだけ会社のために汗を流したか、どれだけ頑張って苦労したかが人事評価につながっていたのです。私自身、上司から『資料を作っておけ』と指示され、提出したときには『そんなの指示したっけ』と言われることもありました」

「資料作成も成果物として評価されていたので、パワポもどんどん豪華になっていきました。しかし、今、多くのビジネスパーソンが苦労しているのは『自分たちで考えてやれ』と言われていること。商品の機能ではなく、その機能が生み出す価値や体験にお金を出す現代では、顧客の欲しいものが複雑で見えにくくなりました」

 越川さんは、働き方改革関連法案の影響で「きれいなパワポに何時間かけているんだ!」と怒られる部下が多くなっていると説明します。このような時代は無駄なことをやめて、最短距離で成果を残して評価された方がスマートだということです。

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尾藤克之(びとう・かつゆき)

コラムニスト、著述家 尾藤克之

コラムニスト、著述家。
議員秘書、コンサル、IT系上場企業等の役員を経て、現在は障害者支援団体の「アスカ王国」を運営。複数のニュースサイトに投稿。代表作として『頭がいい人の読書術』(すばる舎)など21冊。アメーバブログ「コラム秘伝のタレ」も絶賛公開中。

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