いじめ加害者の出席停止を市長が勧告 寝屋川市が異例の条例案、介入にならない?
小中学校の「いじめゼロ」を目指し、大阪府寝屋川市は、加害児童・生徒の出席停止を市長が勧告できる規定などを盛り込んだ条例案を提案しています。

小中学校の「いじめゼロ」を目指し、大阪府寝屋川市は、加害児童・生徒の出席停止を市長が勧告できる規定などを盛り込んだ「子どもたちをいじめから守るための条例」案、被害者側の弁護士費用を補助するための費用を盛り込んだ2019年度一般会計補正予算案を市議会に提案しています。市によると、いずれも全国的に珍しい取り組みで両案とも、12月17日の市議会本会議で採決。可決されれば、2020年1月1日から施行されます。
2018年度は172件のいじめ
市によると、市内でのいじめ認知件数は172件(2018年度)で、市は10月17日、市長直轄のいじめ対応部署「監察課」を設置しました。条例案などは、学校による「教育的アプローチ」に加え、監察課がいじめの初期段階から関与する「行政アプローチ」を導入し、それでも解決しない場合の「法的アプローチ」への支援を行うため、必要な条例と予算の整備を行うものです。
具体的には、「いじめの相談、通報」があった時点で、監察課が被害者や保護者、学校に聞き取り調査を行い、学校側へ勧告。それでも解決せず、加害者に問題があると判断した場合は「加害者の出席停止やクラス替え」などを教育委員会と学校に勧告。それでも解決しない場合には、賠償請求など民事訴訟の支援や警察への告訴支援を行い、弁護士への相談料や訴訟費用の一部を補助します。
いじめ加害者の出席停止は、教育委員会の権限として行えるものの、実例は極めて少ないのが現状です。市長が勧告することで、いじめ問題の早期解決につながる可能性もありますが、「行政から教育への介入につながらないか」という懸念もあります。
監察課の担当者に聞きました。
Q.監察課を設置した狙いを教えてください。
担当者「教育的アプローチでは、いじめの加害者も被害者も同じ『教育・指導すべき児童・生徒』となるため、結果として、子どものSOSの見逃しや危機に十分対応できていないケースが全国的に後を絶ちません。そのため、『いじめは子ども(市民)に対する人権侵害である』という認識の下、教育的アプローチだけでは対応しきれないとの仮説を立て、市長部局が直接いじめ問題に対応するものです」
Q.監察課の職員構成を教えてください。
担当者「職員数は計10人で、そのうち弁護士資格を持つ者は1人、ケースワーカーが3人です」
Q.条例案の趣旨や、盛り込まれた「いじめ情報の提供を受けての調査」「(市長が)加害者の出席停止やクラス替えを市教委や学校に勧告できる」「住民や保護者の、いじめを認知した際の情報提供努力規定」について、それぞれ狙いを教えてください。
担当者「条例案の趣旨は、『市民である児童・生徒』を、いじめという人権侵害から守るために必要な事項を定めるものです。
調査の規定は市長部局の職員が直接、いじめの関係者に聞き取りを行うなど必要な調査権限を付与するものです。勧告の規定は、いじめやその恐れを市長が認めたとき、学校に対して措置を講じるよう、必要な行政指導を行うための権限を付与するものです。情報提供の努力規定は、人権侵害であるいじめを防止するためには情報提供が最も重要となることに鑑み、保護者、地域住民、児童などに広く協力を求めるためのものです」
Q.「いじめの予防・見守り」「いじめ判明後の対応」の役割分担をすることで、教員の働き方改革にもつなげる狙いとのことですが、いじめ判明後の対応に教員が取られている時間はかなり長いのでしょうか。また、監察課のアプローチが入った後は、教員はいじめ問題に関与しないということでしょうか。
担当者「いじめ問題への対応時間は、個々の案件により異なりますが一定の時間を要します。また、監察課がいじめ問題への対応を行った後は、学校において予防・見守りを行います」
Q.監察課は教育委員会を窓口とせず、第三者機関に近い立場で調査に当たるものですが、珍しい取り組みといってよいのでしょうか。
担当者「市長部局の職員が、いじめの初期段階から積極的に関与し、直接調査などを行う取り組みは全国的にも珍しいものと認識しています」
Q.出席停止の勧告を市長(首長)権限にするのは、珍しい取り組みかと思いますが、全国的にも少ないのでしょうか。
担当者「当市が調査した限りでは、他の地方公共団体で同様の取り組みはありませんでした」
Q.いじめの被害者が弁護士に相談したり、加害者や学校などを訴えたりする際の弁護士費用の一部補助は、全国で初めてといってよいでしょうか。
担当者「(開会中の)12月寝屋川市議会定例会に補正予算案を付議しているところです。また、当市が調査した限りでは、他の地方公共団体で同様の補助制度はありませんでした」
Q.市長部局で小中学校のいじめ対策をすることについて、教育への行政の介入になる恐れはないのでしょうか。
担当者「条例案は『市民である児童等をいじめという人権侵害から守るために必要な措置を定めた』ものであり、本条例に基づき、いじめ対策を講じることは教育内容に干渉するものではなく、行政の介入には当たらないものと考えています」
広瀬慶輔・寝屋川市長は「教育的な視点では、いじめの見落としや初動対応が遅れるケースがある。児童生徒を一人の市民として守るために、行政的な視点からも対応していく」と話しています。
(オトナンサー編集部)
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