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高校生に「ギャンブルは娯楽」と説く大阪府市のリーフレット議論に、制作の意図は?

カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を目指す大阪府と大阪市が府内の高校3年生に配った、ギャンブルに関するリーフレットが議論を呼んでいます。

大阪府と大阪市が高校生に配ったリーフレットの抜粋(大阪府ホームページより)
大阪府と大阪市が高校生に配ったリーフレットの抜粋(大阪府ホームページより)

 大阪府と大阪市が府内の高校3年生に配った、ギャンブルに関するリーフレットが議論を呼んでいます。ギャンブルの仕組みや依存症の基礎知識、相談窓口の存在を伝え、ギャンブル依存への注意を促す一方で、「ギャンブルとの付き合い方」として、「生活に問題が生じないよう金額と時間の限度を決めて、その範囲内で楽しむ娯楽です」と、ギャンブルを肯定的に捉えるような文言も入っているからです。

 府と市は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を目指していますが、そもそも、刑法で賭博が禁じられているはずの日本で、競馬などの公営ギャンブルやパチンコが存在することを疑問視する声もあります。リーフレットについての見解を大阪府に、ギャンブルの法的側面を弁護士に聞きました。

「制限付きの娯楽。推奨する意図はない」

 まず、「将来、ギャンブルにのめり込まないために」と題した、ギャンブルなどの依存症予防のためのリーフレットについて、府と市が共同で設立した「IR推進局」の担当者に聞きました。リーフレットはA4判両面カラーで、大阪府内の高校277校に計約9万部を配布。ほかに支援学校版を約1700部配ったそうです。

Q.配布したのは、いつですか。

担当者「当局より、昨年12月に府内の高校及び支援学校に送付し、原則2学期中の配布を各校へ依頼しました」

Q.なぜ、作成・配布したのですか。

担当者「ギャンブルなどの依存症者がギャンブルを始める年齢は、10代後半~20代前半が多数を占めています。依存症を抑制するためには、若い世代への予防教育が大変重要なことから、特にギャンブルなどが合法的に可能となる年齢に近づく高校生に、ギャンブルなどの依存症を知ってもらうため、作成しました。将来、ギャンブルにのめり込まないようにと、意図して作成したものです」

Q.内容はIR推進局で作ったものですか。

担当者「当局が主体となり、府健康医療部や府教育庁の協力の下、作りました。印刷は業者への委託です」

Q.「ギャンブルとの付き合い方」という項目で「生活に問題が生じないよう金額と時間の限度を決めて、その範囲内で楽しむ娯楽です」とあります。ほかの項目では依存症の問題などを取り上げていますが、この項目は、ギャンブルを肯定的に捉えているようにも読めます。

担当者「(将来の)カジノの設置に関係なく、現在もギャンブルなどの依存症の問題が存在し、合法的なギャンブルやギャンブル的な要素を持ったもの(ゲームや投機の一部)が利用できます。そのような状況では、依存症の知識や『やってはいけない』ことだけを伝えるのでは十分でなく、ギャンブルの仕組みやリスクを伝えることが重要と考えています。

ギャンブルはあくまでも制限付きの娯楽であり、リスクを理解して、のめり込まないようにしなければならないと伝えることを意図し、記載しています」

Q.大阪府は、カジノを含むIR誘致に取り組んでいます。ギャンブルを肯定的に書いているのは、そのためでは。

担当者「このリーフレットは、ギャンブルの仕組みや、依存症の基礎知識、相談窓口の存在などの情報を伝え、高校生が将来、ギャンブルにのめり込まないようにしなければならないことを意図して作成したものであり、ギャンブルなどを推奨する意図はありません」

Q.保護者や学校などから、内容について指摘はありませんか。

担当者「ありません」

Q.新年度以降も増刷・配布するのでしょうか。

担当者「2019年度も配布を予定しています。その内容については、必要に応じて改訂します」

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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