従業員の「奨学金」肩代わり 企業が「返還支援制度」を導入する“切実な理由”とは 支援サービスの運営会社に聞く
近年、企業の採用戦略として注目されている「奨学金返還支援(代理返還)制度」の仕組みや、企業が導入する際のデメリットなどについて、奨学金返還支援サービス「奨学金バンク」を運営するアクティブアンドカンパニー代表の大野順也さんに聞きました。

大学や専門学校などの進学時に「奨学金」を借りることは、今や珍しいことではありません。しかし、卒業後に待ち受けているのは、完済まで10年、20年と続く長い返済の道のりです。若者の生活を圧迫する奨学金問題は、いまや個人の問題を超え、深刻な社会問題となっています。
こうした中、日本学生支援機構(以下、JASSO)が2021年に設立した「奨学金返還支援(代理返還)制度」が、企業の採用戦略として注目を集めています。制度の仕組みや、導入にあたっての意外な盲点などについて、奨学金返還支援サービス「奨学金バンク」を運営するアクティブアンドカンパニー代表の大野順也さんに聞きました。
奨学金の返還支援は人材を確保する上で重要
Q.実際に奨学金を利用している人はどれくらいいるのでしょうか。また、奨学金利用の背景について教えてください。
大野さん「まず、奨学金には返還不要の『給付型』、卒業後に返還義務が生じる『貸与型』があります。貸与型には、無利子の第一種と、有利子の第二種が存在します。
JASSOの調査によると、2024年度時点で大学生の約3人に1人が奨学金を利用しています。これほど多くの学生が利用する背景には、次の3つの構造的な要因があります。
【大学生が奨学金を利用する要因】
(1)学費の高騰
過去40年で私立大は1.8倍、国立大は2.4倍にまで上昇しました。
(2)親世代の年収停滞
物価高に対し賃上げが追いつかず、家計からの教育費捻出が困難になっています。
(3)若年層の負担増
急速な少子高齢化に伴う社会保険料の増加などが、若者の手取り額を押し下げています。貸与型奨学金の平均借入額は約310万円で、毎月約1万5000円を約15年かけて返還するのが一般的です。大卒新入社員の平均手取り額が約18万円であることを考えると、この金額がいかに大きいかは想像に難くないでしょう。いまや奨学金は、社会人生活のスタートラインで背負う「長期的な負債」となっているのです。
Q.最近では、返還の負担を企業がサポートする動きも広がっているという話を聞くようになりました。その仕組みと普及の理由は、どのようなものなのでしょうか。
大野さん「2021年にJASSOが、『奨学金返還支援(代理返還)制度』という仕組みを創設しました。これによって、企業が従業員の貸与奨学金の返還残額の一部または全部を、直接JASSOへ送金する形で、返還を肩代わりできるようになりました。2025年9月末時点で全国4154社が導入しています。
背景にあるのは、深刻な人手不足です。少子高齢化で労働力人口が減少する中、先述の通り『奨学金を借りざるを得ない若者』は今後も増え続けます。実際に、返還を抱えながら働く人は約490万人にのぼり、この層へいかにアプローチするかは、人材確保の観点から、もはや企業にとって避けては通れない経営課題なのです。企業がこの制度を導入する主なメリットは次の4つです」
(1)「若手人材」への強力なアプローチ
若年就業者数がこの20年で121万人も減少する中、奨学金返還支援は若手への非常に高いアピール力を持ちます。熾烈な採用競争において、他社との明確な差別化要因となります。
(2)「人材の定着」による離職率の低減
早期離職が課題となる昨今、返還を継続して肩代わりすることは離職の抑止力となり、長期的な雇用につながります。従業員の帰属意識が高まるだけでなく、再採用や教育にかかるコストの削減にも寄与します。
(3)「税制優遇」によるコストメリット
企業が支払う返還額は、一般的に給与ではなく経費(損金)として算入できるため、法人税の負担を軽減できる可能性があります。従業員に同額の給与を上乗せして支給する場合と比較して、税務上のメリットが大きくなります。
(4)「企業イメージ」の向上
この制度の導入はCSR(社会的責任)活動の一環として評価されます。社会課題の解決に取り組む姿勢を示すことで、企業価値が高まり、対外的なプロモーション効果も期待できます。
もちろん、従業員側にとっても大きなメリットがあります。
【従業員側のメリット】
(1)負担の軽減
毎月数万円の返還がなくなることで、生活に経済的・心理的なゆとりが生まれます。
(2)キャリアとライフプランの両立
浮いた資金をスキルアップに投資したり、結婚や出産、住宅購入に充てたりなど、将来のライフイベントを前向きに検討できるようになります。




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