「中立」から「主張」へ 進むナレーションの“自由化”はテレビ成熟の証し?
本業以外のタレントが続々起用
読み手の変化も顕著です。これまでは、いわゆる声優やナレーターといった本職の人間が務めてきたナレーション業ですが、今やさまざまなタレントが挑戦しています。
例えば、モデルの滝沢カレンさん。「全力! 脱力タイムズ」(フジテレビ系)では、名店の絶品料理を解説するナレーションを担当していますが、原稿の漢字が読めず言い間違えたままオンエアされます。さらに、VTRに対し、アドリブで何でも話していい時間もあり、一見不要なポイントを指摘していく様は圧巻です。
6月19日放送の特番「世界で笑いと驚きが起きた瞬間200連発!?」(日本テレビ系)では、“ひふみん”こと加藤一二三・九段がナレーションに初挑戦。象の赤ちゃんが女性に甘える映像では、いきなり「初恋を思い出しちゃうなあ」とコメント。「一曲歌わせてもらおうかな」と、小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」を熱唱したのです。
同番組は、世界中から寄せられたハプニング映像や衝撃映像を人気芸能人がナレーションするというのがセールスポイントで、これまでも、ANZEN漫才・みやぞんさん、りゅうちぇるさん、千鳥などが担当してきました。
「モヤモヤさまぁ~ず2」(テレビ東京系)の、独特のイントネーションのナレーターは人間ではありません。ソフトウェアの開発・販売などを手がけるHOYAサービス株式会社の音声合成ソフト「VoiceText」で作られた声です。
番組構成や出演者、エンドロールやテロップなど、さまざまな創意工夫で他番組との差別化を図ってきましたが、今、「声」にもスポットが当たり始めたと言えるでしょう。
ナレーションを書く「書き手」も変化?
本来、ナレーションを書くことは放送作家、もしくはディレクターの仕事でした。今も、それは変わりませんが、8月15日に放送された「ナレーター有吉」(テレビ朝日系)という番組では、これまでにないスタイルに挑戦していました。狩野英孝さんやバイきんぐの小峠英二さん、池田美優さんが芸能人ディレクターとなって、今伝えたいことを自ら取材し、作ったVTRに自分でナレーションをつけるという新しいタイプの「お仕事バラエティー」だったのです。
しかも、そのナレーション原稿を読むのは有吉弘行さん。タレントが苦心して書き上げた原稿の独特なフレーズに困惑したり、「ここ要ります?」とその場でダメ出ししたりするなど、そのやり取りを楽しむプログラムでした。
1953年2月1日にNHKがテレビ本放送を開始してから今年で65年。さまざまな挑戦的な番組が生まれてきましたが、唯一不可侵だったナレーションのあり方がここまで変容しているのは、テレビそのものを遊び、実験しようとする成熟の時代の証しではないでしょうか。今後の“変化”がさらに楽しみになってきました。
(芸能ライター 河瀬鷹男)
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