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葬儀で“故人”が最期のあいさつ 「生前ビデオ」がつなぐ、「人生の終わりの自覚」と生きがい

自分の葬儀で述べる「あいさつ」を生前に撮影する「生前ビデオ」というサービスがあります。筆者が伝える、人生の最終盤を見つめる機会と「生きがい」の結び付きとは――。

「生前ビデオ」が教えてくれることとは…
「生前ビデオ」が教えてくれることとは…

“日本一背が高いアナウンサー”として人気を博した、元毎日放送アナウンサーの子守康範さんが、自身が経営する会社・アンテリジャン(大阪市北区)で、「生前ビデオ」という事業を開始されました。生きている間に、自分の葬儀で参列者に感謝の言葉などを述べるあいさつを撮っておくというもので、高齢者向けのサービスや商品の中でも、とてもユニークで意義ある取り組みです。

「生前ビデオ」というイノベーション

 葬儀に遺影は必須です。葬儀は故人との思い出、人となり、生きざまに思いをはせる場でもありますが、その際に遺影は大きなきっかけとなるからです。

 遺影をじっと見て故人に思いをはせる。参列した人たちと、遺影に目をやりながら思い出を語り合う――。焼香は遺影に視線を送るようにしてからするのが習いというものですし、遺族も遺影を見ては涙しているように見えます。

 では、遺影はいつごろからあったのか。当たり前ですが、写真という技術がなかった時代に遺影はありません。日本では明治の終わり頃、ようやく今の形のような遺影が出てきたようですが、まだ高価なものだったので、全ての葬儀に遺影があったわけではありません。

 それが今や、欠かせないものとなったわけですから、遺影写真というものは葬儀におけるイノベーションであったといえるでしょう。であれば、現代的な新しい葬儀のイノベーションがあってもいい。高齢期のライフスタイルの充実について調査・研究を行っている私は、「生前ビデオ」にそんな印象を持ちました。

 子守さんに、「生前ビデオ」をいくつか見せていただきました。末期がんと診断された方が、カメラに向かって葬儀に来てくださるであろう方々に向けてメッセージしています。時間にして5~6分。内容は、まず、自分があと数カ月の命であろうことを述べ、自分の人生を子どもの頃から丁寧に振り返って概観していき、その人生を支えてくれた親や先生、先輩・上司などさまざまな人たちへの心のこもった感謝の言葉があり、最後に「先に逝ってしまうが、また皆さんとあの世で楽しく話をすることを望んでいる」といった言葉を伝えるものでした。これが、映像で(生きている本人の表情と声で)流れるわけです。

 その方との面識はない私にも、心に迫るものがありました。最後に明るい顔で、「あの世でまた一緒に飲みましょう」というメッセージがあったときには、こらえられないものがありました。映像の力でしょうか。遺影ではなかなかこんな気持ちにはなりません。

「死をイメージすること」の大切さ

 子守さんの会社にはスタジオがあり、収録用のセットも設けられていますが、そこに行って「ハイどうぞ」で映像が出来上がるわけではありません。当然、話す内容をしっかり準備する必要があります。

 準備は、子守さんやスタッフの方々と一緒に行いますが、この準備も「生前ビデオ」の意義だろうと思います。「自分の死を想像する」という貴重な機会となるからです。

「生前ビデオ」は、自分の葬儀で流す映像を撮ると同時に、いつか死が訪れるという現実を自覚する機会となります。「残された人生の時間には限りがある」という事実と向き合うことです。そしてそこから、残された人生を大切に生きよう、生きがいを見いだしてその実践に努めようという姿勢が生まれてきます。

 年を取れば取るほど、平均的には残された時間が短くなっていきます。持っている時間が減ってくるのですから、「何でもやってみたい」「いつかはやってみたい、いつかやろうと思う」などとは言っていられません。今、あるいは近いうちに取り組まねば、いつ時間がゼロになるか分からないからです。従って、好きなことや大切なことをできるだけ早く発見し、それに絞って集中的に時間を費やすことが大切であるはずです。

 こういった意味で、「生前ビデオ」は、余命宣告された人のためだけのものではありません。まだまだ元気な人たちにとっても、生きがいの発見、「人生の最終盤をどう生きるか」という指針を見つけるきっかけとなるはずです。

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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