【心理】「嫌な出来事」、なぜ記憶に残り続ける? 忘れられる? 原因&対処法を公認心理師に聞いてみた
過去に経験した嫌な出来事が記憶に残り続ける原因や対処法について、公認心理師に聞きました。
過去に経験した嫌な出来事を忘れられないと感じたことはないでしょうか。人によっては、嫌な出来事を突然、思い出してしまうことがあり、悩まされることがあるようです。
なぜ嫌な出来事は、記憶に残り続けるのでしょうか。忘れることは可能なのでしょうか。嫌な出来事に関する記憶への対処法について、臨床心理士・公認心理師の町田奈穂さんに聞きました。
無理に忘れようとしないこと
Q.過去に経験した嫌な出来事が記憶に残り続けるのは、なぜなのでしょうか。
町田さん「過去に体験した嫌な出来事が思い出され、気分が落ち込んでしまうことを『反芻(はんすう)思考』と言います。
人類史を振り返ってみても、人はネガティブな出来事を記憶にとどめておくことで、『危険だから、この場所には近づかないようにしよう』『この植物は毒があるから食べないようにしよう』など、さまざまな危険を避けて生存してきました。そのため、人は本来、ネガティブな出来事を記憶にとどめやすいのです」
Q.嫌な出来事に関する記憶に悩まされやすい人の特徴について、教えてください。
町田さん「人間発達的な観点から考えると、嫌な出来事に関する記憶に悩まされる人は多いといえます。実際、そのような悩みを抱えて相談に来る人が多くいらっしゃいます。
嫌な出来事に関する記憶に悩まされやすい人の特徴としては、ご自身に合ったセルフケアの方法を持っていない人のほか、悩みが大きくなり過ぎて心身ともに疲労困憊(こんぱい)の人、他者との接点が極端に少ない人などが挙げられます」
Q.嫌な出来事に関する記憶とうまく付き合うコツはありますか。忘れることは可能なのでしょうか。
町田さん「嫌な出来事に関する記憶を忘れようとする行為は、お勧めできません。人は記憶から嫌な出来事を消そうとすればするほど、よりその出来事に注目してしまうため、消すことができないのです。
そのため、嫌な記憶を忘れようとするのではなく、その記憶を抱えながら次の4つの方法を試してみてください。時間が経つと、いつの間にか記憶が風化して、『そんな嫌なこともあったな』『あのとき、あんな恥ずかしいことをしちゃったな』など、思い出しても軽く流すことができるようになっているはずです」
(1)気をそらせるものを探す
例えばスマホのパズルゲームなど、手軽に取り組めて熱中できるものがベストです。消そうとするのではなく、嫌な出来事を思い出しつつ気をそらし、気付いたらそちらに熱中して嫌な記憶を流すことができているはずです。
(2)できるだけ後回しにする
仕事中にふと「あの仕事忘れていた。早くしないと」「あそこの片付けをしないと」など、別のタスクを思い出して目の前のことに集中できなくなった経験はありませんか。人は思い出したことが解決せず、頭に残り続けることで集中力が途切れてしまったり、やる気がそがれてしまったりすることがあります。
この解決方法の一つとして、時間を置いてから取り組む方法があります。例えば、「午後4時から〇〇の仕事に取り掛かろう」「夕食後に片付けをしよう」と考えることです。後で取り組もうと考えることで一応の解決となるため、目の前のことに集中しやすくなります。
この方法を応用し、嫌な出来事を思い出したときは「後で考えよう」などと、できるだけ後回しにするのがお勧めです。
(3)自然に触れる
自然に触れるのは、ストレス対策には大変効果的です。嫌な出来事を思い出したときは、近くの公園や海辺、河川敷などを散歩してみてください。自然に触れ合うことでストレス値が確実に低下していきます。嫌な出来事が思い出されたときにすぐに行くことができるように、日頃からあらかじめ緑の多い場所など、自然に触れ合える場所をチェックしておくのがお勧めです。
(4)出来事に名前を付ける
少し変わった方法ですが、嫌な出来事が思い出される場合は、出来事そのものに名前を付けるのがお勧めです。
例えば、職場で上司に叱責される記憶が繰り返し思い出されて嫌なときは、その記憶自体に“おこりんぼさん”と名付けてみるのはいかがでしょうか。そして、記憶が思い出されるたびに「あっ、またおこりんぼさんが出てきた」と考えるようにします。こうすることで、第三者的な視点を持つことができ、嫌な出来事を思い出すことに対するストレスが低減されます。
Q.嫌な出来事の記憶に煩わされることが多い場合、心理的にどのような病気の可能性があるのでしょうか。
町田さん「嫌な出来事の記憶に煩わされることが多い場合、最も気を付けなければならないのがうつ病です。反芻思考はうつ病の一番の原因ともいわれ、さまざまなことに対するやる気を低下させ、うつの負のスパイラルに陥りやすいのです。日常のさまざまな場面で嫌な出来事を思い出すと、不安症や不眠症といった疾患のリスクが高まります。
また、命の危険を感じるような出来事や、強い恐怖感を伴う出来事など、精神的に強い衝撃を受けた出来事に関する記憶が思い出されることは、『フラッシュバック』と呼ばれており、この場合、『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』の可能性が疑われます。
嫌な出来事を思い出してしまい、日常生活に支障が出ている状態が1カ月以上続く場合は、すぐに精神科や心療内科の受診のほか、臨床心理士や公認心理師のカウンセリングを受けることをお勧めします」
(オトナンサー編集部)
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