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起床時にイライラ→高血圧リスクUP どうやって改善する? 原因&対処法を臨床心理士が解説

起床時に機嫌が悪い原因や改善方法などについて、臨床心理士に聞きました。

寝起きが悪い原因は?
寝起きが悪い原因は?

 起床時になぜかイライラした経験はありませんか。SNS上では、「本当に寝たのかと思うぐらい機嫌が悪い」「起床時に気分が悪い」「最近、寝起きが悪い」などの声が上がっており、起床時に機嫌が悪いと感じる人は比較的多いようです。

 起床時に不機嫌になるのは、なぜなのでしょうか。改善するには、どのような対策が有効なのでしょうか。病気の可能性などについて、大阪カウンセリングセンターBellflower代表で、臨床心理士・公認心理師の町田奈穂さんに聞きました。

体内時計の乱れが原因

Q.起床時に機嫌が悪い人がいますが、どのような原因が考えられますか。

町田さん「『体が起きる準備ができていない』からだと言えます。私たち人間をはじめ、地球上の生物は、地球の自転による24時間周期の昼夜の変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を変化させる機能を持っているといわれています。この約25時間周期のリズムは、『概日リズム』(サーカディアンリズム)と呼ばれています。

概日リズムは、光や温度変化のない状態でも認められることから、生物が体内に時計機構を持っていることが明らかとなりました。これを体内時計(生物時計)と言います。体内時計により、夜が近づくと体温や血圧などを下げ、休む準備に入ります。そして朝が近づくと、起床後の活動のために血圧や体温などが高まっていくのです。

体内時計は、光の影響を大きく受けます。そのため、夜遅くまで光を浴びていたり、朝起きても光を十分に浴びなかったりすることによって、体内時計にズレが生じます。その後、体本来のリズムのズレが、自律神経のバランスの乱れや睡眠不足のほか、睡眠の質の低下などにつながります。

そのため、起床時にリズムのズレによって、起床後の活動の準備が“身体的に”できていないため、機嫌の悪さにつながると考えられます」

Q.起床時に機嫌が悪くなるのを防ぎたい場合、どうすればよいのでしょうか。有効な対策について、教えてください。

町田さん「体内時計を概日リズムに合わせることが大切です。日が昇ると起床し、日が沈むと寝るという、人間が太古から続けてきたように、『体内時計の睡眠のタイミング』と『生活の睡眠のタイミング』を合わせましょう。つまり規則正しい生活をするということです。

体内時計は先述の通り、光の影響を大変強く受けます。そのため、まずは遅くとも寝る1時間前にはテレビやパソコン、スマホの使用をやめましょう。また、夜に向けて室内の部屋を徐々に暗めにしたり、光の色を白色から黄色やオレンジがかった、いわゆる暖色系の色に変えたりすることも効果的です。

明るさや色調を調整できるシーリングライトが販売されているほか、専用アプリを使うことで、指定した時間に照明のオン、オフなどを自動で行える製品もありますので、そのような便利家電を使うのもお勧めです。自宅の周囲に街灯や店舗があるなど、就寝時にどうしても部屋を暗くできない場合は、遮光カーテンを使うのもよいでしょう。

起床時はカーテンを開けて、最低15分は太陽の光をたっぷりと浴びましょう。窓の前に座って日光浴をするのもよいですが、部屋中のカーテンを開けて朝の準備や家事をするだけでも大変効果的です。

部屋の日当たりが悪く、なかなか光が入らないという場合は、光を発する光目覚まし時計などの利用がお勧めです。アプリと連携することで、設定した時間に向けて徐々に明るさを強めていき、日の出と同等の演出をしてくれる製品もあります。光を浴びることで、起床前から血圧をゆっくり上げる準備をしてくれるためお勧めです。

このほか、飲食は胃や腸に刺激を与えるため、体内時計に影響が生じます。そこで、寝る2時間前までに食事を済ませたり、起床時に水を飲んだりするのも効果的です。

よく、『お酒を飲むと眠れる』という理由で就寝前にお酒を飲む人がいますが、これは逆効果です。お酒は一時的に眠気をもたらしますが、長い眠りや質の良い睡眠の妨げになるため、一度眠っても、途中で起きてしまいます。それにより、体内時計がズレる原因になるのです」

Q.規則正しい生活に改めても起床時に機嫌が悪い状態が続く場合、何らかの病気の可能性が考えられるのでしょうか。

町田さん「睡眠障害の一種である『概日リズム睡眠障害』の可能性があります。体内時計は約25時間リズムであることから、自然と後ろにズレていく傾向にあります。

そのため、夜遅くまで勉強や仕事を続けたり、スマホでSNSを閲覧したりするなどした場合、体内時計が大幅に後ろにズレてしまい、日本にいながら、海外に行ったような、『時差ぼけ』のような状態になります。

また、寝る時間が遅くなると、平日は次第に睡眠時間が短くなり、その睡眠不足を補うために週末の睡眠時間が長くなりがちです。これにより生活リズムが乱れ、さらなる体内時計のズレを引き起こします。

睡眠不足の状態だと、人は正常な判断が難しくなります。そのため『疲れているから早く寝る』という当たり前のことさえも、夜になると考えられなくなり、気付いたら何時間もスマホでSNSを閲覧していたり、ゲームをしていたりという状態に陥ってしまうのです。

若ければ若いほど、エネルギーや気力で日中を乗り切ることが可能な場合があるため、概日リズム睡眠障害は病気として認識されにくいですが、れっきとした睡眠障害と言えるでしょう。

国立精神・神経医療研究センターのほか、先進各国で行われている研究によると、睡眠不足は不安や抑うつ、情緒不安定の傾向を高めることが明らかになっています。実際の脳機能を調べたところ、睡眠不足が5日間続くことでうつ病や統合失調症の患者に似た変化を示すことが明らかとなっています。

『卵が先か、ニワトリが先か』という因果のジレンマがある通り、眠れないから精神疾患になったのか、精神疾患だったから眠れなくなったのかを明らかにすることは難しいですが、生活リズムを見直しても睡眠の状態がなかなか改善されない場合は、うつ病や不安症など、何らかの精神疾患の可能性を考える必要があるでしょう」

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町田奈穂(まちだ・なほ)

臨床心理士、公認心理師

同志社大学大学院 心理学研究科修了。在学時より滋賀医科大学附属病院にて睡眠障害や発達障害に苦しむ人々への支援や研究活動を行う。修了後はスクールカウンセラーやクリニックの臨床心理士を経験。2020年、父の病気を機に父が経営する機械工具の卸売商社へ入社。そこで多くの企業のメンタルヘルス問題に直面し、大阪カウンセリングセンターBellflowerを設立。現在は、父の後を継ぎ機械工具の卸売商社の代表を務めるほか、公認心理師・臨床心理士として大阪カウンセリングセンターBellflowerを新規事業とし、支援者支援をテーマとした研究や臨床活動を行っている。大阪カウンセリングセンターBellflower(https://counseling-bellflower.com/)。

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