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SNS上で「うるさい」の苦情、多数…選挙カー、音量と活動時間に規制はない? 活動をやめさせることは可能? 弁護士に聞く

選挙カーの音量に法的な規制はないのでしょうか。また音声がうるさい場合、警察などに訴えて選挙カーによる活動をやめさせることは可能なのでしょうか。弁護士に聞きました。

選挙カーの音量に規制はない?
選挙カーの音量に規制はない?

 統一地方選挙後半戦の投開票が4月23日に行われます。そのため、住宅街などでは選挙カーが候補者の名前を連呼しながら移動しているのをよく見掛けます。ただ、選挙カーのスピーカーから流れる音声について、SNS上では「うるさい」「昼寝中の子どもが起きてしまった」という内容の声が多く上がっています。

 そもそも、選挙カーの音量に法的な規制はないのでしょうか。もし音声がうるさい場合、警察などに訴えて選挙カーによる活動をやめさせることは可能なのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

選挙活動時の音量規制はなし

Q.そもそも、選挙カーのスピーカーから流れる音声に関して、法的な規制はあるのでしょうか。

牧野さん「選挙運動は、公職選挙法の規定の範囲内で行わなければなりません。選挙カーで候補者の名前を連呼したり、街頭演説をしたりするときの音量について、公職選挙法では原則として規制がありません」

Q.なぜ音量に関する規制がないのでしょうか。考えられる理由について、教えてください。

牧野さん「東京都や大阪府の『拡声機による暴騒音の規制に関する条例』では、『音の発生装置から10メートル離れた地点で85デシベル(救急車のサイレンと同じ程度の音量)を超える音』を『暴騒音』と定めており、公共の場所などで拡声機を使って暴騒音を出すのを禁じています。

しかし、この条例は選挙運動には適用されないので、選挙運動車両が85デシベル以上の音量で選挙運動をしても条例違反になりません。その理由として、『選挙運動は民主主義の根幹をなすものであり、規制については最低限とすべき』という考え方があるものと思われます」

Q.選挙カーで音声を発しながら住宅街などを移動する場合、どのような規制があるのでしょうか。

牧野さん「選挙運動ができる期間は、立候補の届け出が受理されたときから投票日の前日までとされています。選挙運動の時間帯について、公職選挙法は、午前8時から午後8時までと定めています。この期間、時間帯であれば、街頭演説や選挙カーを使った選挙運動をすることができます。

公職選挙法では原則として音量規制はありませんが、学校、病院、診療所、その他の療養施設の周辺では、静穏保持の努力義務があります」

Q.午前8時~午後8時以外の時間に選挙カーで音声を発しながら移動した場合、罰則はあるのでしょうか。また、学校や病院などの周辺で、スピーカーの音量を下げずに選挙カーによる選挙活動を行った場合はいかがでしょうか。

牧野さん「選挙運動の時間帯を守らずに選挙運動を行った場合、公職選挙法に基づき、2年以下の禁錮または50万円以下の罰金を科される可能性があります。その場合、一定期間、選挙権および被選挙権が停止されます。

先述のように学校や病院、診療所、その他の療養施設の周辺では、静穏保持の努力義務がありますが、あくまで努力義務なので、違反行為への罰則などはありません」

Q.選挙カーの音声がうるさい場合、警察などに訴えてやめさせることは可能なのでしょうか。

牧野さん「受忍限度(我慢できる範囲)を超えた騒音の場合、民事裁判の対応を取ることができる可能性がありますが、選挙カーの音声は、期間や時間帯が限定された一過的な騒音であり、選挙運動という大義名分があります。特定の人に対する嫌がらせのような意図的な騒音でない限り、裁判所で損害賠償請求や差し止め請求が認められる可能性は非常に低いと思います」

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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