日大広報担当者の“上から目線”は、彼が高齢者であるがゆえの問題だったのか
アメフトのタックル問題で、日大の記者会見の司会を務めた広報担当者が注目を集めています。報道陣に「もうやめてください」「(日大のブランドは)落ちません」と強気の姿勢を貫いたことに、「支離滅裂」「上から目線」と批判が殺到しています。

大学アメリカンフットボールの悪質タックル問題が連日、ニュースとなっています。5月23日に行われた、日本大学アメフト部の内田正人前監督と井上奨コーチによる緊急記者会見は、「悪いお手本のような内容」「火に油を注いだだけ」と話題になりましたが、それ以上に注目されたのが、司会を務めた日大広報の米倉久邦氏でした。米倉氏は、内田氏の発言を遮ったり、会見を一方的に打ち切ろうとしたり、記者に声を荒らげたりするなど、その態度が厳しく批判され、SNS上では「自分より若い記者から責められ続けたことで、キレてしまったのでは」と指摘する声もあります。
今回の“上から目線”の司会は、米倉氏が高齢者であることと関係があるのでしょうか。高齢社会の問題に詳しい、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人・NPO法人「老いの工学研究所」理事長の川口雅裕さんに聞きました。
古い価値観で仕事を続けていた
Q.今回の記者会見における米倉氏の振る舞いや態度は、彼が高齢者であることと関係があるのでしょうか。
川口さん「あの司会者が、記者からの質問に対してキレてしまった様子は、確かに、飲食店や駅などで係員らに激昂している高齢者たちと似ています。感情が抑えられない、自分勝手で傲慢な印象や言葉遣いなどは同じように見えます。
ただし、今回はあのようなフォーマルな場であり、本人も仕事でやっています。公衆の面前でもあり、飲食店や駅などとはあまりに状況が違いますから、全く同じように捉えることはできないでしょう。キレやすい高齢者といえども、あそこでキレることができる人は少ないと思います。
つまり、高齢者特有の現象というよりも、もともとプライドが高く、攻撃性が強い性格のため、長時間にわたる質問が、寄ってたかっていじめられているような錯覚に変わってきて、逆切れしてしまった……。そんなところではないかと想像します」
Q.米倉氏が共同通信社出身であったことから、ネット上では、「格下の記者に偉そうに質問されることが許せなかったのでは」「若者に指導してやろうという気になったのでは」といった声が聞かれます。
川口さん「広報と記者とは正反対という面があります。今回のケースでも、記者は攻めればよいわけですが、広報は守らなければなりません。上手に守るためには、世間の目や論調への洞察、組織内の各所への目配りや調整が必要です。こういうケースでは、攻めるより守る方がはるかに難しいものです。
この司会者は元記者ということですが、平時の広報しかやったことがなく、危機管理の広報、守りの広報は未経験だったのでしょう。そもそも、『元記者だから広報が適任』と考えてキャスティングした日大の認識が甘かったと言わざるをえません。
この司会者も、『メディア側』と『平時の広報』しか経験がないのに、危機管理も含めた広報ができると思い込んだのは勘違いでした。なのに、広報のプロというプライドがあるものだから、会見前に理事長や前監督に『1時間半くらいで、シャンシャンと終わらせますよ』くらいの啖呵(たんか)を切ったのではないでしょうか。なのに、全く終わる気配がない。ここで、プロとして約束したことが守れない焦りや格好悪さがあふれてきて、あのような言動になったのだと思います。
この司会者の問題は、自分を広報のプロだと思い込んだことに加え、広報という仕事の変化に対応してこなかったことでしょう。昔は、記者と酒を飲み交わして親しい関係になることによって、いいように書いてもらったり、都合の悪いことは見逃してもらったりすることが広報の主な役割でした。
しかし、今は違います。記者たちとうまく付き合い、親しくしていればよい時代は過ぎ、広報はインターネットを駆使して情報を入手したり、発信したりする大衆を意識しなければなりません。記者会見や株主総会では、早く終わることではなく、いかに誠実に対話を行うかが重視されるようになりました。こうした変化を無視したまま、プロであり続けることはできません。古い価値観のまま、仕事をし続けていたことが、あの司会者の問題だと言えるでしょう」
Q.尊大な態度の高齢者は多いですね。
川口さん「昔のまま変わらない姿、時代や環境が変化しているのにそれを受け入れようとしない態度が尊大に見えるのだと思います。この司会者も、広報のプロという自尊心を持つと同時に、広報という仕事の変化に気付き、学び、変わろうとしていたら、あのような言動は取らなかったでしょうし、尊大にも見えなかったはずです。
確かに、変わらず大切であり続けるものはあります。しかし、昔のことが全く通用せず、役に立たなくなってしまうこともあります。高齢者には、その変化についていけるかどうかが問われているのでしょう。
『強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ』という言葉があります。高齢者はもちろん、中高年も含めてこの言葉を肝に銘じておくべきだと思います」
(ライフスタイルチーム)
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