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「競争しない」「モノ持たない」が幸せ? “意識低い系”自己啓発が流行する理由とは?

生き方を問う自己啓発本が続々登場

「足し算型の自己啓発」から「引き算型の自己啓発」へのシフトは、人々の関心が「社会的な成功」から「個人の幸福」へと移っていることを明確に表しています。「引き算型の自己啓発」の始まりは、2010年前後に出現した片付けやミニマリズムでした。「捨てる」「減らす」「少なくする」――これが人生にとって重要なものだと気付かせ、幸福度を上げるという思想で、前時代的な価値観からの脱却を意味していました。

 片付けやミニマリズムは、整理整頓を通じて生き方を問うものですが、やや遅れる形で直接生き方を問う自己啓発書も増えました。主な書籍のタイトルは、「人生を半分あきらめて生きる」「40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。」「ゆるい生き方」「がんばらない成長論」「持たない幸福論」「しょぼい起業で生きていく」「がんばらない練習」「半分、減らす。」「Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」「なんか勝手に人生がよくなる やめることリスト」などです。

 ひろゆき氏はこの「より少なく、より良く」を推奨する自己啓発の最先端に位置しています。常に自分と周囲を比較したり、持ち物で見えを張ったり、仕事のために生活を犠牲にしたりといった、ザ・昭和的なやせ我慢に疑いの目を向け、そのような世間体や常識として刷り込まれていたものを「差し引く」ことが重要だと強調します。

 ひろゆき氏の言う「考え方次第で人は幸せになれる」には、親や教師などに吹き込まれた考え方こそが、本人を不幸にしてしまっている可能性への警鐘も含まれているのです。

 経済の先行きは暗く、政治で何かが変わるとはまったく思えず、かといって自助努力で大きな成功などは望めない過酷な世界で、なんとか自暴自棄にならずにやり過ごしたすにはどうしたらいいのか――このような危機意識を抱いている人々にとって、ひろゆき氏をはじめとする「引き算型の自己啓発」は救いとなるでしょう。なぜなら、何かを「足す」のではなく「引く」ことで、自分の幸福度が上がると言うのですから。

 もちろん、「考え方を変える」のは、相当大変なことです。しかし、社会の閉塞(へいそく)感が強まり、「〇〇ガチャ」という、親子関係など個人の努力ではどうにもならない事柄を表すネットスラング(ネット上で使われる俗語)があふれる中で、これだけ「引き算」のニーズが高まっているということは、自己防衛的にならざるを得ない人々が増えている証拠といえます。

 仮に、これが「自分のささやかな幸せだけは死守する」といったサバイバル志向を加速させ、結果的に社会全体のムードが殺伐となるような悪影響が生じるとしても、むしろ人々はそれに対する強力な解毒剤としてさらなる「引き算」を求めずにはいられない、というのが真実なのかもしれません。

(評論家、著述家 真鍋厚)

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真鍋厚(まなべ・あつし)

評論家・著述家

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。著書に「テロリスト・ワールド」(現代書館)、「不寛容という不安」(彩流社)、「山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義」(光文社新書)。

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