オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

ほどほどにモノを所有する「ゆるミニマリスト」 若い女性の間でトレンドに その背景は?

若い女性の間で「ゆるミニマリスト」という生活スタイルがブームとなっています。その背景について、ライターが考察しました。

従来の「ミニマリスト」の中には、家電や家具を一切置かない人も
従来の「ミニマリスト」の中には、家電や家具を一切置かない人も

 近年、「ゆるミニマリスト」「シンプルライフ」「捨て活」という言葉をネット上などでよく目にするようになりました。「心に余裕ができる」「幸福度が上がる」「お金がたまる」といったメリットが強調されているのが特徴です。

米国発のミニマリズムが独自に進化

 とりわけ注目されるのが、若い女性たちの間でちょっとしたトレンドになっている「ゆるミニマリスト」です。簡単に説明すると、無理をせずほどほどの所有物で生活を送るスタイルのことで、余計なモノを捨てて身軽になることを目指す「捨て活」と、お気に入りのモノだけでおしゃれに暮らす「理想の追求」を両立させる路線です。

 ミニマリストといえば、何もない真っ白な部屋に、モノトーン(白、黒、グレー)の家具が1つか2つ置いてあるだけの殺風景なイメージが思い浮かぶのではないでしょうか。実際、ベッドやソファ、冷蔵庫、電子レンジなどの家電すら処分してしまう人たちもいます。ミニマリズムは、極限までモノを減らし、物欲を抑制することで幸福になれるという考えがあるからです。

 米国発のミニマリズムは、もともとエリート層の物質主義的な生き方に対する反動として始まりました。例えば、有名なミニマリストユニットである「The Minimalists」(ザ・ミニマリスツ)のジョシュア・フィールズ・ミルバーンは、以前は数十万ドルの収入があるエリートビジネスマンで、大きな家と高級車、ブランド品を持っていましたが、それでも不幸だったと彼は言っています。

 モノの所有によるステータスの向上=物欲を満たすことによる幸福の実現は、借金だけでなく、過重な働き方も強いるため、いくつもの負債とストレスが積み重なって、何も良いことはないという実感に基づいていました。そこから「足るを知る」こと、「モノは量ではなく、質が重要」という認識が生じます。

 このようなルーツを持つミニマリズムが日本に入ると、低成長時代であったことも手伝って、エリート層の物質主義に対する反動の側面は薄れ、節約と節制という生活防衛、雇用や報酬の不安定さから身を守るサバイバリズムの側面が大きくなっていきます。また、お金がたまる貯蓄術、さらにはお金を増やす資産運用の要素まで加わってきました。

 特に見逃せない点は、極限まで「減らす」ことを目的とする原理主義的な傾向の人が一定数現れてきたことです。これは「個人にとっての適量を尊重」「家や自動車の所有の有無は関係ない」とするアメリカのミニマリズムにはない発想です。脱消費主義的な生き方へのシフトこそが重要で、何が大切なモノか、どれだけ必要かは究極的には人それぞれだからです。

 一方、「ゆるミニマリスト」は、「ゆる」という言葉の通り、極端な「捨て活」はしません。その上で、あまり背伸びをせずに知恵を絞って、自分の趣味に合うファッションやインテリア、住まいを自らつくり出すのです。日本型ミニマリズムの「減らす」の目的化を避けて、生活術とおしゃれのバランスを重視する方向性です。

 整えアドバイザーでゆるミニマリストの阪口ゆうこさんは、「暮らしやすさより、ものを減らすことが優先されるのは、違う」と言い、あくまで手段としてミニマリズムを活用したと述べています(「片付けは減らすが9割」ぱる出版)。インスタグラムを中心に影響力を持っているゆるミニマリストたちも、おおむねこの立場です。

 モノを減らすことを優先すると、美しいデザインの家具や、カーテンなどの装飾を犠牲にすることになり、日常を過ごす場所が貧しくなってしまうからです。最も大事なのは、自分が理想とする整った空間、美意識の具現化なのです。そのため、服装やコスメ、調度品などはケチらずに良質のモノを購入していることが多いのです。

 例えば、あるインスタグラマーは、自分好みに厳選されたモノだけで生活空間を満たした結果、「物欲がコントロールできるようになった」「掃除が楽になった」「お金と時間に余裕ができて心が安定する」「好きな人と過ごせる」といった変化を挙げます。ゆるミニマリスト生活は、幸福度や自己肯定感が上がるとしています。

 そこには、ミニマリズムというより日本の「お片付け」ブームの影響が感じられます。やましたひでこさんや「こんまり」こと近藤麻理恵さんが始祖的な役割を果たしていますが、そのエッセンスは広く拡散・浸透しています。やましたさんが提唱した「断捨離」は、モノへの執着を捨て、身の回りをきれいにするだけでなく、心もストレスから解放されることが目的だからです。

 近藤さんも「片付けを通して自分の内面を見つめることで、『どういうものに囲まれて生きたいのか』自分の価値観を発見し、キャリアや人間関係など、人生における全ての選択に大きな変革をもたらす」としています(こんまり公式サイトより)。つまり、「捨て活」のプロセスで「自分の好み」が見つかり、そこにお金や時間を集中でき、仕事や交際も好転するというわけです。

 つまり、ゆるミニマリストは、ミニマリズムとお片付けのハイブリッドと言えます。ミニマリズムから原理主義的な部分を取り除き、お片付けからは体系的なメソッドを取り除いて、手法やエッセンスのみをうまく取り入れたものなのです。ミニマリズムの徹底は大変で、本格的なお片付けは習得に時間がかかるため、より手軽な方法に簡略化したのです。

 もっと正確に言えば、これはミニマリズムやお片付けが一般的なツールになったということでもあります。YouTubeやインスタグラムなどを見渡すと、モノの手放し方から整理整頓、メンタル改善に至るまで、実に数え切れないほどの実践と助言が発信されています。

1 2 3

真鍋厚(まなべ・あつし)

評論家・著述家

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。著書に「テロリスト・ワールド」(現代書館)、「不寛容という不安」(彩流社)、「山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義」(光文社新書)。

コメント