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ほどほどにモノを所有する「ゆるミニマリスト」 若い女性の間でトレンドに その背景は?

ブームはさらに加速?

 また、昨今は「終活」(自分の死後のための準備)の文脈で「捨て活」が脚光を浴びています。なぜなら、「捨てること」の実利面が分かりやすいのと、心身への好影響が語られているからです。それもそのはず、本家本元のお片付けの創始者たちは、スピリチュアルな思考を組み込んでおり、「白魔術」(運気上昇などの開運祈願に代表される古代から続く魔法)のような機能性を持たせています。

 近藤さんの著作のタイトルに「人生がときめく片づけの魔法」とあるのは偶然ではありません。やましたさんが公式ブログなどで繰り返し「見えない世界」に言及するのも偶然ではありません。ただし、従来の「白魔術」と異なるのは、体系的なメソッドによる具体的な作業があり、自己分析が行われるところです。自力の比重が大きいため、魔法が見えづらいだけなのです。

 今後、何十倍にも希釈されたミニマリズムやお片付けは、養生訓のような思想と結び付きながら、生活防衛や終活、健康増進、気分転換といったさまざまなニーズに応える知恵としてどんどん流通することでしょう。そして、現状を変えたいと思っている人にとって、時折、魔法のような認識を与え、癒やしをもたらすこともあるでしょう。

 なぜなら、今や何らかの障害に阻まれたり、さまざまなリスクに直面したりして疲れたとき、手っ取り早く自分で自分をケアしなければならない社会状況だからです。コミュニティーの衰退や生活空間の市場化は、自己責任の範囲を押し広げ、セルフケアの重要性は高まるばかりです。当然、心身が良好で、回復力があることは仕事でもプライベートでも有利に働きます。

 仮に、ゆるミニマリストに一定の効果があるとすれば、これほどコスパが安いツールはありません。基本はモノを捨てて、住空間を整えるだけだからです。将来の社会に明るい展望が持てず、足元の経済状況もお先真っ暗な中で、「とにかく試して結果が良ければOK」という割り切りは、ない袖は振れない生活者にとって一面の真理でもあるのです。

(評論家、著述家 真鍋厚)

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真鍋厚(まなべ・あつし)

評論家・著述家

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。著書に「テロリスト・ワールド」(現代書館)、「不寛容という不安」(彩流社)、「山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義」(光文社新書)。

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